あたしは、ほとんどスキップしながら
学校に行った。

学校は、全く変わっていない姿で
あたしを待っていてくれた。

授業には、まだ時間があるので
いつものスナックルームに行く。
まだ、だれも
そこには、いなかった。

あたしは、うふふ~と
ひとりで思い出し笑いしながら
アイスのチョコレートバーを
自販機で買っていると
リンダが微笑んだまま
パリッとした紺のスーツで
颯爽と入ってきた。

  何、笑ってたのよ。

聞こえてたか。
あたしは、えへへ、と
照れ笑いして、
椅子に座った。

  大丈夫なの?

と心配そうに顔を覗き込む
リンダは、赤毛が輝き
相変わらず綺麗だ。

あたしは、大丈夫だと言い、
今日のバイト先の
クッキーとプリシラについて
話した。

途中から、リンダは、
笑い転げていて、
それってどうなの?
絶対、訴えれば、勝てるわよ
なんて、裁判所勤めらしい
意見を言う。

あたしも、話しながら
笑ってしまった。

  そうよね。
  職場環境が悪いって
  カフェを訴えようかしら。
  
お腹を抱えて、笑っていると、
ロビンが入ってきた。
珍しい。
ロビンは、スナックルームとか
雑談とか、嫌うのに・・・

ロビンは、あたしのそばに
すっとくると、
突然、がばっとハグしてきた。

ええええーーーーーーー

あたしは、内心焦る。
かなりのパニック。
笑っていたリンダまで
急に固まってしまう。

どうしたっていうの。

ロビンは、目に涙まで浮かべて
心配してたのよ
と力強くハグしたまま
あたしの耳元でささやいた。

あたしは、仰天したままだ。

だって、いままでロビンとは
そんなに話したこともないし、
正直、授業をかき回すロビンを
煙たがってさえいた。
それなのに、
この親密な態度とは。

あたしは、こころから感謝して
ロビンのホホに軽くキスをし、
背中をたたいた。

ロビンは、嬉しそうに
ホホを染めて
ハグを解くと
どこかへ慌てて出て行ってしまった。

リンダは、圧倒されたように

  ロビンと仲良しだったの?

と聞いてきたけど、
あたしは、うーん、まあと
言葉を濁した。

変な気分というか、
不思議な気持ち。
大変な目にあったときに、
こんなに親密な仕草を
ロビンがしてくれることに
ちょっと感動してた。

これからは、ロビンが
授業で質問しても
微笑んでみようと
思ってみた。
無理かもしれないけど。

リズの声の話をしようと思ったけど、
授業の始まる時間になり、
あたしとリンダは、
教室に急いだ。

あたしは、チョコレートバーを
半分かじったまま
クラスに入る。

クラスメートから
お見舞いの言葉を
浴びせられて、
なんだか、恥ずかしかった。

ナオミ先生が
時間通りに入ってくると、
あたしを見つけて
微笑んでくれた。

そして、授業が始まった。

今日は、粘土と匂いが
テーマだった。

またまた、困難なテーマ。

粘土なのに、
匂いを表現するなんて
神業に近いわ~と
あたしは、テーマを聞いた瞬間
ため息をついた。

ナオミ先生は、
まず匂いのイメージを
さまざまな角度から
検証していく。

それは、あたしが考えられないような
イメージばかりで
驚きの連続だ。

匂いの色。
匂いの感触。
匂いの大きさ。
匂いのリズム。
匂いの音。
そして、匂いのかたち
などなど・・・・

匂いも、こう考えると
粘土で表現できそうな
気がしてくる。

それに、匂いって
イメージをふくらませると
あたしには、
お料理やお菓子が
次々と浮かんできてしまう。

冷たいビシソワーズ
口どけやわらかいウニのムース
つぶ貝のカスパッチョ
ナスのマリネ
サーモンのカナッペ
Tボーンステーキ

ケーキにクッキー
そして、ふわふわレモンスフレ

ああ、たまらない
夢心地になった
あたしは、
授業中ということも忘れて
うっとりしてしまう。

はっと気づくと
お腹が鳴っていた。

そうだ。
あたし、お腹が空いているんだわ。

あたしは、そのまま
お腹が求めるままに
次々、食べたいものを
イメージしつづけ、
授業は、終わってしまった。

そして、課題だけ残る。

でも、あたしは、粘土と匂いの課題は、
もう、お料理とお菓子でいこうと
決めていた。

ナオミ先生を見送ると
早速ローラを探す。

ローラは、目が覚めるような
ゴールドのストールを
巻いて、すましていた。

あたしは、そのあまりの輝きに
後ろから抱きついた。

ローラも、すぐに
くるっと向きかえって
ハグしてくれる。

  ライラ。
  お腹、鳴ってたでしょ。

聞こえてたか。
あたしは、笑ってごまかした。

  さあ、美味しいものを
  食べに行こうよ。

  今日は、どうする?

とっておきの野菜たっぷり
フランス料理のお店に行くことにした。

リンダも、一緒に行けるというので
三人で連なって歩く。

お店は、フランスの古民家を
模した、小さくとっても可愛い
木で作られている。

あたしたちは、元気良くお店に入る。

かっこいい年配のウエイターが
心得たように、
奥の席に案内してくれた。

いつもの、野菜たっぷりコースを
三人ともオーダーすると、
シャンパン風のグラスに
入れてもらったジンジャエールで
乾杯した。

お腹が空いているので、
三人とも
上の空の会話だ。

まず、前菜がやってきた。

トマトの蜂蜜風味サラダ。
フルーツトマトと蜂蜜が
とてもよくあったサラダだ。
あっというまに完食。

タイミングよく
グリーンピースのポタージュが
運ばれる。
綺麗な緑色のスープは、
その色だけでも、食欲をそそる。

そして、空豆、インゲン、絹さや、ナス、赤ピーマンなどの
グルヌイユ・カエルのフリット菜園仕立てがやってきた。
真っ白な四角いお皿の中に、
カエル肉を中心に、野菜が菜園のように並ぶ。
色とりどりで、とっても豪華なメインだ。
カエルは、淡白な鶏肉のようで、美味しいし、
野菜も、そのままの味を大事にグリルされていて
最高の美味しさになっている。

あたしたちは、夢中になって食べた。

次に、ホワイトアスパラガスとグリーンアスパラガス
の軽い煮込みがやってきて、歓声を上げた。
これが、最高なのだ。
アスパラガスの2種類の美味しさを堪能できる。
あっというまに、食べきってしまう。

お魚料理は、鱸だった。
スズキに、たくさんの種類のきのこと
ピスタチオナッツのソースが
たっぷりかかっている。
とろける美味しさって、こういうことよね。
香り立つ美味しさだ。

ようやく、お腹が満足し、
三人は、落ち着いた。

デザートに、いちごのスープ仕立てと
フレッシュチーズのシャーベットを
いただき、美味しい珈琲に
自家製チョコレートまでつけてもらう。

落ち着いた照明と
満腹の満足感で
あたしたちは、ゆっくり会話を
始める。

  それでね、ローラにリンダ。
  今日、リズってひとの声がね・・・

つづく・・・・・