唐突に、

じじじじ・・・・・

と機械音がして
あたしたちは、静まり返る。

大きな映像の中のナンシーが
歪むようにゆっくり
動きはじめる。

  みなさん、こんにちは。
  急にこんなことになったけど
  わたしは、元気でーす。

びっくりだ。
なんなんだ、この
ハイテンションのナンシーは。

聞いた事もないような
ハイトーンの声。

しかし、いかにもナンシーだ。
まずは、お詫びではなくって
自分の挨拶だもんね。

  わたしがいなくなったので
  Aブロックが心配です。
  大丈夫でしょうか。
  あはは~あはは~

ばかみたいに、ものすごく
楽しそうな笑い声が、
耳に痛いよ。

  わたしのかわりに
  Aブロックのチーフは
  だれになったの?
  あっべティーか。
  あはは~

  でね。
  わたしは、新しくそっちにいった
  リズの以前の仕事を少し
  引き継いで
  ここでやることになったわけ。
  うふふ。
  プリシラ、ごめんなさい。
  わたしのせいで、
  やりたくなかったフロアーに
  戻ったんじゃないかしら。
  ほんと、ごめん。
  
  で、これから
  リズにわからないこととか
  電話して訊くけど、
  こっちからしか電話できないのよ。
  だから、わたしが電話したら
  よろしくね、リズ。

  あーこんなところで
  仕事するの大変なのよ。
  じゃっ

ジジジジジ・・・・・

機械音とともに、
大きなスクリーンのナンシーは
消えた。

あたしは、ほっとして
ため息をついた。
あちこちから、ため息の
ふーという声にならない声が
聞こえてくる。

なんなのだ。これは。
警察かFBIの管轄かは
知らないけど、
保護施設にいるひとの
私信みたいなもの
持ってくる必要があったのか。
これも全部、税金なんだよな~と
あたしは、どっと疲れた。

あくまで笑顔の警官は、
   
   これで終わりです。

とニコニコが貼り付いたようになって
手早く機械などをしまうと
帰っていった。

怪我の治った
マネージャーのフィリップが
ごほんと咳払いをして
立ち上がる。

  では、
  これまで通りに開店準備をします。
  みんな大変でしたが、
  がんばりましょう。

みんな急にざわざわして
正気に戻ったみたいな
気持ちになった。

そうそう。
バイト、バイト。

リズが立ち上がって、
ステキな笑顔で皆に挨拶した。

  みなさん。
  ナンシーの事件があり、
  不安や恐怖があったと思いますが、
  今日またお仕事にきてくれて
  ありがとう。
  メンバーの変更などがあり
  慣れるまで、少し大変かと思いますが
  みんなでがんばりましょう。
  私も、できるかぎり、フロアーへも
  ヘルプで行きますので、
  何か困ったことがあったら、
  声をかけてくださいね。

リズの声は、
ほんとうにやわらかで
温かみに満ちていた。
アジア系ということで
声に深みと神秘的な感じを
与えている。
あたしは、うっとりと聞き惚れた。
こんなステキなリズが
このお店にきてくれたなんて
心強い。
ちょっと、ナンシーに感謝した。

でも、あのビデオは、
ひどすぎる。
なんだか、後味がわるかった。

プリシラは、しらーとした顔で
今日からお店にきている。
でも、少し存在感が薄くなってる
そんな気がした。
ナンシーから名指しされたせいか、
みんな、そんなプリシラを
注目してて、
余計プリシラは、
仮面をかぶったみたいな顔をしている。

あたしは、場違いな
パーティーに参加してしまった
壁の花のような気持ちになった。

ロッカールームに急ごう。
みんなと一緒に
ロッカールームに
流れるように歩いた。

今日のお店は、どんなふうになるのだろう・・

つづく・・・・・