あたしは、最大級の幸せに包まれながら
家に帰宅した。
ひとりでいても、
ひとりではない心強さを
感じてにっこりした。

らんらんらん、
とスキップしながら
階段を登り、
バスルームに直行した。

ピンクのあわあわの
ストロベリーバスバブルを入れて
勢い良くお湯を出す。

ぽんぽんっと
乾いた音がして
ハート型に作られた
バスバブルの中から
小さなストロベリーグッズが
出てきた。

すごーく可愛いラッシュの
バス作品とも言うべき
入浴剤だ。

あたしが、ラッシュの
こうしたグッズが出てくる
バスバブルを使うのは、
特別な夜と決めている。

今日は、まさに
特別な夜だった。

あたしは、お湯が溜まった瞬間に
バスタブにどぶんと飛び込むと
ストロベリーの濃厚な香りを
胸いっぱいに吸い込んだ。

幸せな気持ちが倍増する。

小さなストロベリーグッズを
宝探しのように
たくさんの泡の中から探し
子どものように
ひとりで、きゃっきゃっと
笑った。

長い1日だったので、
お化粧もはげて
口ひげがうっすら
伸びてきている。

あたしは、顔を撫ぜて
そのヒゲのざらざらに
驚いた。
手鏡を用意して、
あわあわにのんびり浸かりながら
毛抜きで一本一本
抜いた。
なんだか、ヒゲの毛抜きだというのに
バスバブルに包まれたままだと
オンナって感じがして
ちっともイヤじゃなかった。

すっかり、気になるヒゲを
抜き終わり、
足と腕をシェーバーで
キレイに剃っていく。

オンナのたしなみだ。

まさに、オンナの気持ちを
大事にした行動だと
実感した。

すっかり、ストロベリーな気持ちになり、
ストロベリーのシャンプーとリンスをして
あたしは、ぬるめのシャワーを浴びた。

ピンクのバスローブを着て
ベットにぽーんと
横になった。

幸せな気持ちのまま
ぐっすり眠った。

こうして、あたしは、
幸せなまま
数日を過ごした。

数日、家にこもり、
美味しい食事を自炊しながら
アトリエで
水彩画を描き続けた。

水彩画は、
毎回、別の絵の具を
使ったかのような
新しい発色を見せた。

幸せは、幾重にも
色を重ね、
太陽の光で
キラキラして見える。

あたしは、無我夢中で
次々に湧くイメージを
真っ白なキャンバスにぶつけた。

いつまでも、いつまでも、
幸せなイメージは、
湧き出る泉のごとく
こんこんと生まれ続ける。

あたしは、そのイメージを
追うだけで精一杯で
絵の具の色さえも
確認せずに、
塗りたくった。

最後に、油絵の作品を
作った。

それは、光り輝く
金色の光の
シャワーだった。

油絵の具を
渾身の力をこめて
真っ黒のキャンバスに
のせていく。

見事な光のシャワーができたとき、
なぜか、そのうえに
黄金の丸いオーラができていて
驚く。

いつのまに、こんな色が?
と不思議に思いながら
絵の具まみれの自分に
気づいた。

あたし、すっかり
油絵の具と水彩絵の具の匂いに
なってる。

カレンダーを見ると、
明日からバイトに
出勤だ。

時間の観念を失っているのだけど、
出勤を忘れないように
夜の星空を見るたびに
カレンダーに絵の具で
丸をつけていたのだ。

あたしは、
自分の幸せイメージの
作品に囲まれて
幸せだった。

絵の具の匂いを落とすため、
ミントの香りの
バスバブルで一杯にした
バスタブに浸かった。
自分が清められるような
そんな清々しい気持ちがした。

すっきりミントのバブルで
髪も体も、顔までも
洗ってしまう。

別人のように
ミントの香りのひとになり
あたしは、自分のお腹が
ぐうぐう鳴っているのに
気づいた。

そうだ。
今夜は、パエリヤを作ろう、
と唐突に思いつき
キッチンに急ぐ。

1.5人分用の
パエリア鉄鍋を火にかけると
乾燥アジアライスに野菜や
冷凍魚介類を乗せて
パエリアの素を入れると
蓋をしてオーブンに入れた。

出来上がるまでは、
30分はかかる。

あたしは、オレンジを絞って
炭酸で割り、
オレンジ・ソーダを作る。
あたしは、それをご機嫌で飲みながら、
ハワイアンミュージックをかけて
なりきりフラダンスを
踊った。

その優雅でおだやかなリズムと
熱烈なラブレターのごとくの歌詞に
あたしは、腰をふりながら
酔ったように踊った。

幸せだ。

オーブンの焼きあがりましたベルが
リリンと鳴ると
あたしは、踊りながら
パエリア鍋を取り出した。

そのまま専用の木製のトレイの上に
のせて、テーブルに置く。

蓋を開けると
思わず、歓声をあげちゃったくらい
ステキな出来栄えだった。

美味しい匂いに
綺麗な彩り、
それは、幸せの太陽のような
パエリアだった。

あたしは、相変わらず
なぜかハワイアンを聞き、
ハワイの海辺で
パエリアを食べている気分に
なっていた。

ふうふうと冷ましつつ
オリジナルのオレンジ・ソーダで
舌をかばいながら
食べるパエリアって最高だ。

あたしは、すっかり食べ終わり、
ちゃっちゃっと
踊ったまま
片付けた。

明日からは、また
日常が始まる。

新しいあたしに、なるような、
そんなステキな予感で
いっぱいになりながら、
あたしは、ベットに横になった。

明日からの日常が
まだ上手に思い出せないが、
明日になれば、大丈夫だろう。

ふっふっふ、
ひとりで、ヘンな笑いを
していながら、
あっというまに
夢の世界だった。

つづく・・・・・・・・・