愛につつまれながら、
あたしたちは、
お腹もこころもいっぱいになって
幸せだった。

これまでのあたしには、
いつも、愛とか
愛し合うとかって
ひどく難しい問題だった。

まず、あたしの性別を
意識しなくっちゃならない。

オトコのときのあたしは、
オンナとの付き合いを
オトコとして一生懸命
頑張らなきゃいけなかった。

本当は、レズビアンだというのに、
どうして、オトコとオンナとして
愛し合わなければならないのか。

それは、あたしを混乱させ、
そして、相手も混乱させる。

あたしは、そのたびに、
自分のカラダをのろった。
どうして、オトコに生まれたのだろうと
自分を憎悪した。
ちゃんと、愛せないあたしに
絶望した。

でも、あたしが、
勇気を出して、
ジェンダークリニックで、
オンナになりたいと伝えたとき、
唯一ドクターが意見したのは、
あたしのこの性的指向の問題だった。

あたしが、オンナのからだになって
オンナを愛したいと
望むのは、
そんなにヘンなことで
異常なのだろうか。
このリベラルなサンフランシスコでさえ・・・

いつも
このトランスの問題と
性的指向の問題は、
重なることがないかのように
みんなスタンダートな性と性的指向を
望むのだろうか。

そうでなければ、
あたしたちは、声をあげては
いけないのか。

声をあげると
ますますマイノリティーグループからさえ
差別されるなんて
本当にどうかしてる。

あんなに、学校では、
小学校くらいから
セクシャリティーのグラデーションなんて
授業をやるという
このアメリカ、サンフランシスコなのに
どうして、あたしみたいなのが
いてはいけないの?

あたしは、いっつも、
マイノリティーのなかのマイノリティーで
自然に生きていくことは、
それだけで社会的に危険にさらされるなんて
ひどい。

大きな声で叫びたかった。
ずっと、ずっと、叫びたかった。

オンナになりたいの。
そして、オンナとして、オンナを愛したいの。

それを、ふつうに自然に
受け入れてくれるひとがいたら
どんなに幸せだろうって思ってた。

トランスしたいまだって、
いろんなグループに参加してるけど、
トランスのグループではトランスを
レズビアンのグループではレズビアンを
というシェアしか、できていない。

ほんとうのありのままの姿を
シェアできるのは、
ラン医師の前だけだ。
ラン医師だけが、
あたしのこのままを受け入れてくれて
フォッフォって笑ってくれた。
あのステキな笑いは、
あたしをこころから
くつろがせて、
あたしに生きる希望を
抱かせてくれた。

そして、いま、
ようやく出会えたローラ。

ローラは、あたしが
どんなあたしであっても、
嫌がらないし、差別しない。
ヘンな目で見ない。

あたしを、
ありのままの目の前のあたしを
見てくれる。

この幸せ感!!

ふつうのひとには、わかってもらえないだろう。
ほんとうは、みんなに、
わかってもらえたら、
もっと幸せなんだけど。

いまのあたしは、
あのヘレンケラーの
ウォーターと手に触れる水が
一致した喜びと
同じくらいの最大の喜びを感じていた。

セクシャルな意味のない愛だろうが、
今後セクシャルにすすもうが
そんなことどうでもいいくらい
あたしは、幸せだった。

あたしは、幸せだーーーーー!!!!!

海のアシカに向かって
叫んでもいいくらいだ。

ローラと出会えて、
あたしは、幸せだった。

ありがとう。ローラ。

あなたがいてくれれば、
ちゃんと生きていけそうだ。
そう、オンナとして、
オンナの気持ちを大事に
生きていけそうだ。

オトコの時代の
オンナとの付き合いや
オトコとの付き合いがあるから
いまのあたしが
あるんだってことも
すごくよくわかった。

オトコの過去なんて
消し去りたかったけど、
いまは、それも大事にしよう。

だって、あたしだもの。

あたしは、こうして、
ラン医師の願う
本当のなかまと出会った。

きっと、これからは、
たくさんの本当のなかまと
出会うだろう。

それは、あたしが、
変わったからだ。

そう、あたしは、自分を大事にできる。

だから、大事にしてくれる
なかまと出会えたのだ。

ありがとう。
ラン医師にこころから感謝した。

こうなるまで、
ずいぶん時間がかかったけれど、
あきらめずに静かに見守ってくれた
ラン医師の素晴らしい待つ力、
信じてくれる強大なこころに
あたしは、感謝した。

ありがとう。
ありがとう。

涙が、あとからあとから流れる。

これは、温かく
そして、愛に満ちた
幸せの涙だった。

ローラも、笑顔で涙を流していた。

あたしたちは、
衝動的に立ち上がり
しっかりハグすると
お互いの頬に大きな音を立てて
キスをした。

すばらしい夜だ。

つづく・・・・