ぼーとしていた。
気づくと、シェアリングは
終わっていて、
みんな涙を流したり
笑ったり
感情を忙しく働かせている。

あたしは、なかまのことばを
遠くに聞きながら
胎児とママという
組み合わせに
囚われていた。

スカラは、思い切りシェアしたせいか
会ったときよりも
ますます元気になっている。

もう、ワークは、
いっぱいいっぱいで
限界だ。
スカラに引っ張られても
断らなきゃって思った。

スカラは、きゃっきゃっと
笑いながら
あたしの腕をつかんだ。

  さあ、お茶にしましょう。

やっと休憩だ。
長いワークのはしごだったわ。

プリンの中にある
ティーサロンに行く。
相変わらず、あのころと変わらない
洋菓子のガラスのショーケースのなかには、
何種類ものプリンが並んでいた。

あたしは、ピンクの
ベリーミルクプリンを
カフェオレとのセットでオーダーした。

スカラは、ローファットプリンという
味があまりなさそうな
健康的なプリンをオーダーしてる。

あたしたちは、
かわいい黄色に縁取りされた
木製のテーブルセットに
向かい合って座り、
吹き抜けの天井から
降り注ぐ太陽の光を
浴びていた。

スカラとあたしは、
運ばれてきたプリンを
勢い良く食べ終わると
珈琲をすすった。

ふたりそろって
ふーーー
とため息をつき、
顔を見合わせて笑った。

ワークやシェアは、
とっても大きなギフトをくれるけど
そのぶん、こころの振幅は大きく
非常に疲れる。

過去や未来に
入ったりきたりして
頭もフル回転だ。

ようやく珈琲で
いまここ、に
帰ってきた気がした。

あんなに元気の良かったスカラも
落ち着いた笑顔を見せて
黙っている。

あたしたちは、
テーブルの上で
手を握り合い
黙って手のぬくもりを感じあった。

その結ばれた手から
発信される温かさは、
なんと真摯な愛情だろう。

あたしたちは、
しずかに涙を流し、
そして、微笑みあった。

  ありがとう。
  今日は、会えて本当に良かった。

あたしたちは、
そう言いあって、
またメールアドレスすら
交換せずに、
入り口で分かれた。

あたしは、
またひとりで
歩き始める。

プリンの大きな施設を
振り返って見ながら
今日現実に会った
ラン医師の変わらない
とぼけた笑い声に
励まされていた。

あたしのオンナの気持ちを
見つけよう。

ふいに、そう決心する。

ママの気持ちを手放して
それからだ。

あの催眠ワークの効果は、
絶大だった。

だって、いままでは、
どれがママの気持ちかなんて、
というか、
ママの気持ちと自分の気持ちが
くっついていることすら
考えたこともなかった。

それが、はっきり
ビジョンとして
見て感じたのだ。

それは、大きなギフトだった。

あたしのセクシャリティーの
ゆがみが
こんなところにあったなんて
驚きだけど。

でも、これもラン医師の言う
あたしの記憶なんだろう。

記憶は、塗り替えられる。

実感として、それは、わかった。

事実を暴くのではなく、
記憶をアップデートすること。

それが、あたしのなかの
ママの気持ちを手放す
秘密のスキルだ。

あたしは、もやもやした
事件後の気持ちから
自分の問題に取り組んでいることに
いまさらながら驚いた。

いつでも、自分の問題なのだ。
そう、だからこそ、記憶のアップデートで
問題から回復していけるのだ。

あたしは、
なんだか、元気が出てきた。

お腹が空いた。

そういえば、
ランチを食べてない。

すっかりワークとプリンで
空腹を誤魔化されてたけど、
かなりお腹が空いていて
グーグー鳴っていた。

さあ、ごはんを食べよう。

そうだ。
大好きなローラを誘おう。

何を食べようかしら。

食べたいものを
空想しながら
元気良く歩き始める。

つづく・・・・