ランチは、近所の
ブレックファースト&ランチのための
カフェレストランへ行った。

なんとなく、
フロアーとベーカリーそして事務などの
グループに分かれて、
別々のレストランになる。

あたしのフロアー係グループが
入ったのは
15人も入れば満員の
赤と白のチェックで彩られた
可愛いカフェだった。

ランチ時間を過ぎているからか、
お客さんは、あたしたちだけで、
すっかり貸切状態だった。

あたしたちは、それぞれ
焼きたてパンのサンドイッチと
スープにサラダのランチメニューを選ぶ。

あたしが選んだのは、
ターキーサンドイッチに
ソラマメのポタージュ、
そしてアボガドサラダだった。
ドリンクは、アイスティーにする。

あたしたちは、勝手に
テーブルを移動して
みんなで輪をつくって、
まるでピクニックのように
座った。

美味しいサンドイッチとスープの
匂いで、あたしのお腹は
ぐうぐう鳴り始めていた。

ようやくみんなが揃い、
食べ始める。

みんなもお腹が空いていたようで、
ものすごい勢いで
食べる。

これまで、緊張してたから
わからなかったけど、
お腹がカラッポだったのだ。

ようやくリラックスして
あたしたちは、
楽しく食べた。

ナンシーの話題は、
注意深く避けられている。

その代わり、
プリシラとクッキーの
話になった。

プリシラの司法取引のこと。
恋人の小麦粉取引の件について
なんらかの情報提供することで
禁固刑などに減刑されるのでは
との噂だった。

クッキーは、小麦粉取引に
関わっているのではないかと
事情徴収を受けているのではと
もっぱらの噂だった。

なぜかというと、
クッキーは、バイトに入りたての頃から
プリシラと非常に
仲良しだったらしいのだ。

あるときは、なんと
パウダールームの個室で
二人で入っていたという
話まで出た。

なんでも、当初は、
小さな会議室で
二人でなにやら話していたそうだ。
それを、数人のひとに
見られたり、
話しかけられたり、
聞き耳を立てられたりした。
そのため、
鍵をかけて話し合うように
なったそうだ。

でも、ここはサンフランシスコ。
個室で、上司と二人っきりとなると
当然のことのように
性的関係が疑われる。
同性だろうが、異性と同じ扱いだ。
あまりに頻繁のため、
プリシラが上司から
鍵をかける理由を説明させられた上で、
厳重注意となった。

そのせいか、会議室での
鍵をかける行動はなくなった。

しかし、コソコソと
今度は、パウダールームである。
個室で二人となると
目立つ。
理由も、ありえないし。

ただ、パウダールームでの
目撃証言があっても、
上司がその場を知りえないし、
非常にプライベートな個室のため、
説明を求めることも、
はばかられたようだ。

あたしも、こんなことを聞くと
正直、性的関係しか
思い浮かばない。
あんな小さな密室で
他にどんな理由があるというのだろうか。

プリシラとクッキーという、
一見アンバランスな二人が
惹かれあうのも、
ありえなくは、ないではないか。

あたしは、自分がトランスしている
という状況のせいか、
二人が愛し合っているなら、
なんだか、認めてあげたいような
気がしてきた。
二人に、親近感すら、湧いてくる。

ぼーとなった頭で
二人のラブラブシーンなんて
思い描いては、
なんだか、あたしが、
真っ赤になってしまった。

こんなあたしを
気にすることなく、
みんなの話は、すすんでいた。

どうも、愛し合っているとか、
そういう関係ではなく、
何か訳有りのようだ。
それは、仕事絡みのようである。
二人は、一体、
何を話し合っていたのだろう。
密室で。

パウダールームの密室で
恋愛以外の関係にもかかわらず
話し合うなんて、
あたしには、想像もできなかった。

そんなに切羽詰った話なんて
ふつう無いもの。

不思議な二人だ。

事実は、どうなんだろう。

プリシラの恋人の
小麦粉取引の事件は、
かなり大掛かりなものなのかもしれない。

クッキーは、どう関わっているのか
あたしには、計り知れなかった。

ますます、頭が混乱したあたしは、
ナンシーの娘のことを
思った。

きっとグレイの施設で
大事にされている、と
信じたかった。

ナンシーやプリシラは、
娘のことをどう考えているのだろう。

あたしには、事件とか、
仕事とか、よりも、
この娘のことが、
最も重要に思えてならなかった。

尻切れトンボに話が
ふっと消えてしまい、
なんだか、後味の悪いランチになった。

あたしたちは、
ランチに出かけるときの
元気をすっかり無くして、
お腹だけを一杯にして、
お店を出た。

  では、来週ね。
  よろしくお願いします。
  さようなら。

と口々に言い合って、
手を振り合う。

あたしは、学校に向かうことにした。

お腹が一杯で、
家に帰ると
寝てしまいそうだった。

ぼんやりしているのは、
寝不足のせいだ、と
あたしは思った。

学校に行けば、
ローラに会える。
そうすれば、元気になるんだ。

とあたしは、
頭の中で、
繰り返し唱えて、
とぼとぼと歩いた。

つづく・・・