サンディーとあたしは、
バスに乗って、
ダンススタジオまで行った。

ちょうど10分ほどで
主に中流層のマンションが立ち並ぶ
エリアに着いた。

バスの中で楽しく
アフリカンダンスの話をしているときに、
あたしは、はっと気づいた。

そういえば、お茶目な少女の
ロールプレイをしているつもりだったのに、
すっかりミニミーティングでは
忘れてしまった。
あまりの混乱でうっかりしてしまった。
オトコになってなかったかしら、と
いまごろになって不安になってきた。

大丈夫、大丈夫と
深呼吸してみる。

サンディーは、楽しそうに
アフリカンダンスが初めてだから
緊張しているのだと
急に深呼吸を始めたあたしを見て
きっと気に入るわと
綺麗なウインクをしてくれた。

  ねえ、あたし、ダンスできそうに
  見える?

とサンディーに訊いてみる。
サンディーは、

  もちろん!可愛いダンスをしそうに見えるわ。

と思いっきりの笑顔で答えてくれて、
あたしは、すっかりその気になって
ウキウキしてきた。

ダンススタジオの前では、
大柄の黒人男性が待っていた。
サンディーを見つけると、
走ってきて、抱き上げてキスをしている。

あたしは、あまりのことに
目をパチパチさせてしまった。

サンディーは、ひとしきりキスして、
あたしに、恋人のグレイだと紹介してくれた。

グレイは、あたしにも、笑顔でハグしてくれて
チャーミングだね、と言ってくれた。
あたしは、恥ずかしそうに、
小さく笑顔でありがとうと答える。

そのまま、スタジオに入ると
もう10人くらいが集まっていて、
とてもダンサブルな太鼓の音楽が
鳴っていた。
みんな、アフリカの民族衣装のような
派手な色彩の布をまとっている。
あたしも、サンディーに連れられて
更衣室に行き、鮮やかなオレンジの布を
アフリカ風にまとった。

女性用更衣室で、誰かと一緒に
着替えるのは、かなり緊張する。
トランスしているのだから、
見た目で他の女性と異なるところは
ないはずなのだが、
それでも、トランスがばれるのでは、
と不安が高まるのだ。
だから、あたしは、よほどのことが無い限り
誰かと一緒に着替えることはないのだけど、
サンディーのペースに巻き込まれて
あっというまに、着替えてしまった。

あたし、パスできるんだ、
ハダカでも、とかなりの自信になった。

ダンスフロアーにつくと
20人くらいになっていた。

先生らしき、わりと小柄の
黒人のきれいな女性が前に立ち
挨拶をして、音楽を変えた。

ヴォーカルのある音楽だ。
どちらかといえば、
ゆるやかなテンポで
のんびりしたムードになった。

先生は、初めてのひとも、
そうでないひとも、
さあ、楽しく踊りましょうと言って
振り付けをゆっくりしてくれる。

みんなは、それを真似しながら
輪になって、踊る。

手と足と腰が独特のテンポにあわせ
どれも異なる動きをするので、
どこかに集中すると
それ以外ができなくなる。

あたしは、軽くパニックしながら
とにかく手だけでも、と
動かしているが、
腰と足でみんなの輪全体が動くので
ついていくのに、ずれてしまう。

すると、先生がそばにきて
足が大地について、
頭の上から光が差し込んでいるような
イメージでカラダを揺らすのです、とささやいた。

あたしは、自分の素足で感じる床を
大地とイメージして、
サンサンと輝く太陽の光を
カラダいっぱいに浴びていると
イメージしながら、リズムに合わせた。

素敵な気持ちになってくる。
歌も、しっかり聞こえてきて、
アフリカの言葉が呪文のように
あたしのからだをほぐしていくのがわかった。

すっかりパターンをのみこんだ
あたしは、楽しくなって
いい気持ちで踊った。

次から次と曲は変わり、
みんなは、先生の踊りをお手本に
勝手に好きなようにアレンジして
楽しそうに踊っている。

大地の乾いた太陽の香りが
してくるようだった。

あっというまに、20分も踊り続け
休憩となる。

気づくと、サンディーとグレイは
抱き合って踊っていた。
とても仲良しで、うらやましいくらいだった。

休憩で出されたペプシを飲みながら
とても楽しいとサンディーとグレイに
伝えると、嬉しそうによかったと言ってくれた。

サンディーは、少し壁際に行きながら
あたしの耳元でささやいた。

  あそこにいる太った男性が
  プリシラの恋人よ。

えっ、とあたしは驚いた。
そこには、非常に恰幅の良い
日に焼けたような褐色の男性が
楽しそうにグループで話している。

あれが、プリシラの、なのか。
なんとなく、イメージが合わないような
しっくりこない感じがした。

サンディーは、同じ人種で
近所に住んでいるから、良く知ってるし、
こうして、プライベートの範囲が
似ていて困るの、とささやく。

すると、グレイがなにやら
その恋人に、話しかけていた。
なぜか、プリシラの恋人は、
さっと顔色が変わり、
急に態度が変わる。

グレイは、真剣な面持ちで
何かを話しかけていて、
それをプリシラの恋人は、
緊張したような怒ったような
面持ちで聞くと、
すたすたと帰ろうとした。

すると、またグレイが話しかけ、
なんとプリシラの恋人が
グレイに殴りかかっていた。

あたしは、驚いた。
何が起きているのか、わからないけど
暴力は、いやだ。
恐怖で固まってしまう。

サンディーは、グレイのそばにいて
プリシラの恋人になにやら文句を
言っているようだった。

ダンスの先生がきて、
ケンカの仲裁をすると、
また、音楽が流れダンスが始まった。

でも、あたしは、怖くて
からだが動かない。
ケンカがあると、
恐怖が高まってしまうのだ。

そして、自分のオトコが
目覚めていくのが、わかる。

戦闘態勢になってしまうのだ。

せっかくの女性的な衣装を
身につけているのに、
からだがこわばって、
オトコの動き方になっていくのがわかる。

サンディーに、

  ごめんなさい、踊れないの。
  何があったのか、わからないと怖いの。

とささやくと、

  そうよね。わかってる。
  もう、ダンスをやめて、ごはんを食べに行きましょう。

と言ってくれた。

あたしたちは、そそくさとダンスフロアーを出て
更衣室であっというまに着替えて、
外に出た。

グレイも、笑顔で待っていてくれた。

美味しいアフリカ料理のお店があるからと
連れられていく。

つづく・・・・