5分も歩いたかどうかのところで、
ものすごい大声の男性の叫び声が追いかけてきた。
怒鳴っているような、悲鳴のような声だ。

あたしは、ビクッとして
後ろを振り返れない。

その声は、あっというまに近づいてきて
サンディーとグレイの名前を
叫んでいることがわかった。

サンディーは、あたしに小声で
あそこの路地に逃げて、とささやき、
グレイと、声のほうへ向かっていく。

あたしは、あわてて、
小さな路地に入り込み、
家と家のあいだの窪みで
息を殺していた。

ドキドキする。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
あたし、これからどうしよう。
タクシーも走っていないような
こんなところで、
いったい、どうすれば、良いのだろう。

どんどん恐怖が怒りになってしまう。
どうしてこんな目に合わなければいけないんだ、
あたしが一体何をしたっていうの?
思わず、汚いことばが心をかすめた。
酒、酔っ払いたい、と
切実な思いがこみ上げてくる。

まずい。オトコになるどころか、
また、アルコールに耽溺しそうだ。
スリップは、もう、たくさん。

頭を振って、窪みから出ると、
あてもなく歩き、
小さなコンビニに入って
あたしは、携帯を開いた。

一番近いAAミーティングを探す。

検索したところ、すぐ近くのビルで
AAミーティングがやっていることを
知った。
あたしは、とりあえず、ペプシを買うと
そのビルへ急いだ。

そのビルは、女性センターも兼ねているようで
8階建ての建物すべてが、
何かのセルフペルプグループだったり
NPOだったりするようだった。
たえず、ミーティングが行われているようで、
多くのひとが出入りしている。

あたしは、受付の親切なおばさんに
AAの場所を聞き、
エレベーターで教えられたとおりの
AAの部屋へ急いだ。

そこは、まるで親友のお部屋のような
温かくこじんまりしていて
ファッショナブルな部屋だった。

女性センターのせいか、
女性が多い。

お部屋は、3つに分かれており、
入り口の机にいた女性から
いま、赤いドアのミーティングが終わるところだけど、
黄色のドアのミーティングは、
始まったばかりだから、どうぞと言われる。
ミーティングの内容によっては、
あたしがいてもよいのか、と思ったけれど、
何も聞かれないまま、どうぞと言われたので、
そっと黄色のドアを開けて、あたしは、
入っていった。

ちょうど、オープニングセレモニーの最中だった。
大柄の女性が、美しい声で
セレモニーを執り行っている。
そこは、まるで、あたしのための
ファミリーの部屋になろうとしていた。

あたしも、みんなの輪に入り
手をつないで、祈る。
輪のまま、座ると、
シェアが始まった。

あたしの番もやってくる。

あたしは、スリップしそうになっている
このどうしようもない怒りを話した。
話しながら、どうしてあたしが、という
思いの強さは、いまだけのことでなく、
あたしが、思春期からずっと抱えている
大きな問いであって、
そのことがグルグルすると、
酔いたくなることがわかってきた。

しかし、あたしは、泣きながら、
大きな音や声の恐怖がどこからやってくるのか、
そして、それをどうして怒りとして
感じてしまうのか、を自分でも不思議に思っていた。

あたしは、ひとしきり話すと、
泣き続け、みんなの話を聞き続ける。

なぜ、あたしだけが、と
グルグルしているが、
みんなの話を聞いていると、
あたしだけじゃないことが
こころに入ってくる。

そう、あたしだけじゃない。
こんな気持ちになるのは、
変なことじゃない。

だんだん、落ち着いてくるのがわかる。

あたしは、それでも、
スリップしなかった、と
2回目のシェアで話すと
皆は、立ち上がって、あたしのところまで
来てくれて、次々ハグしてくれた。

  おめでとう。
  よくがんばったね。
  きてくれて、ありがとう。

口々に、温かいことばをかけてくれる。

あたしは、あまりの嬉しさに
こころが温かいものであふれてきて
熱い涙がこみあげてきた。

ありがとう。
ひとりじゃないし、
こうしたあたしを受け入れてくれて
ハグしてくれることに、
感謝した。

つづく・・・