午後は、スローテンポで進んでいった。
あたしは、ずいぶん元気が出たので、
接客に励んだけど、
やっぱり、時間の進みが遅い気がした。
ナンシーは、帰宅してしまっていた。

フロアーマネージャーが
朝からのバイトを集めて、
少し早めに終わり
ミニミーティングをすると言ってきた。

あたしは、だらだらと時間を待ち、
ミニミーティングで
何が話されるのか、と思った。

普段よりも、15分早く、
バイトは終了となり、
あたしたちは、ミーティングルームへ
急いだ。

ふだん、あまり話さない
BブロックやCブロックのひとたちに
囲まれて、あたしは何だか
緊張してしまう。

深呼吸して、お茶目、と
こころの中で唱えて、
さっき上手にできた
お姫様だけど庶民を見にきたお茶目な少女の
つもりで、可愛く座った。

隣の席は、Cブロックの
話したことのないラテン系のように見える
大きくウエーブされた黒髪が印象的な
サンディーだった。

サンディーは、とても気さくに
話しかけてくれた。
いま、アフリカンダンスを習っていると
教えてくれて、そのリズムを
小さく腰を振って教えてくれる。

あたしは、その素敵なリズムと
神秘的な黒髪と黒い瞳のサンディーに
こころを惹かれて、うっとりした。

サンディーは、ダンスなりズムのまま
小さな声で、ささやく。
きっと、またプリシラの尻拭いを
させられるのよ、と。

あたしは、尻拭いって、
どういうことなんだろうと思った。

しばらくして、
大きなクッキーと珈琲カップが回ってきた。
あたしは、やわらかいキャラメルクッキーと
薄いアメリカン珈琲をしっかり持ち
頭の中で、アフリカンなリズムを刻みながら
マネージャーが話し始めるのを待った。

マネージャーは、唐突に
甲高い声で、話し始めた。

  今朝は、お店にきてすぐに、
  皆さんが驚くような出来事があってすみませんでした。
  プリシラさんは、少し疲れているようです。
  ご自身の問題も抱えていて、
  それが混乱して今日のようになりました。
  明日には、また元気になると思いますので、
  今日のことは、あまり気にしないでください。

と一気に離し終わり、では、終わりと
早々に帰ろうとする。

あたしは、少し眩暈がした。
これが、説明かしら。
ナンシーの話は、ないのかしら。

すると、すかさず、べティーから
質問が飛んだ。

   これからのこのお店の小麦粉は、
   どこの業者のものになるのですか。
   ナンシーは、どうしたんですか。

マネージャーは、もごもごしたまま
口ごもり、すぐには、答えない。
ジョニーが、

  どうして答えてもらえないのですか。

と声を上げる。
つづけて、サンディーが大きな声を出した。

   ナンシーは、今朝、
   お店の窓が開いていたと
   大騒ぎをして、プリシラと
   セキュリティーの会社に連絡してました。
   セキュリティーチェックが完了しないと
   このお店は、最後のひとが帰れないシステムなのに
   プリシラまで、セキュリティーが壊れてると
   大騒ぎして、みんなに苛められてるからだと
   叫んでいたんです。
   みんなに苛められてるってどういうことですか。

マネージャーは、汗を噴きださせたまま、
もごもごしているままだ。
他のバイトからも、口々にそうだ、そうだ、
何がどうなっているのか、
プリシラとナンシーから直接話を聞きたいと
いい始めた。

マネージャーは、何もないので、
ふたりから話させることはないと
断言して、逃げるように、行ってしまった。

今日みたいなことは、
これまでも、あったのだろうか。

あたしは、入りたてながら、
このバイトの奥の深さを
しみじみと実感した。

これが、働くということなのか。
これが、普通の人間関係なのだろうか。
とすれば、あたしは、これを
乗り越えなければ、と強く思う。

いきなり、バイトにきたら、
プリシラが騒いでいたり、
ナンシーが奇行をしていても、
なかったことになってしまい、
しかも、プリシラが騒ぐのは、
疲れているからで
あたしたちが苛めているっていうのは、
はっきりしないまでも、疑われていて
いい気がしないけどね。

お詫びなのか、口止めなのか、
あたしたちに、お店側から
ひとり3000円分くらいの
パンのギフトセットが配られて、
お土産になった。

なんか、おかしい。
お店は、何か隠してるのかしら。

あたしは、頭が混乱してきた。
何かが起こっているのは、わかるのだけど、
それが、何か、がわからない。

ふうとため息をついていると
隣のサンディーから
アフリカンダンスを誘われた。
なんと、今日これから教室があるんだって。
しかも、初めての場合には、
体験で無料とのことだった。

あたしは、踊りたい気分だったので、
すぐにOKして、一緒にお店を出た。

つづく・・・