おはようございまーーーす♪

バイト先に着いたあたしは、
思いっきり大きな声で、挨拶しながら
お店に入っていった。
すでに、お店の前には、
お客さんが並んでいるみたいな
ちょっとした列ができていて
驚く。

制服に着替えたら、
早速、朝の朝礼が始まるので、
急いでロッカールームに走りこむ。

ウエイトレス用の制服は、
かなり、大人のかわいさ全開って感じのものだ。
JAPANで流行っているらしい、
MEIDOって感じか!?

あたし用のロッカーは、
どちらかといえば、ツンってすました
背の高いモデルみたいなジョニーの隣だった。
ジョニーは、あたしに、にっこり笑いかけて
ウインクしてくれた♪
それだけで、あたしは、ぽっと
ホホを赤らめて、ハッピーになってしまった。
今日のランチは、ジョニーと
食べること、と頭の中のメモに
書きながら、鼻歌まじりに、朝礼へ。

朝礼では、フロアマネージャーのフィリップが
昨日のトラブルと対応について話し、
今日は、同じことのないようにと、しめた。

そのあと、ウエイトルス・マネージャーのプリシラから
細々した注意事項が話されている。

あたしは、だんだん、ぼんやりしてきて
学校の課題レポートのことを
考え始めてた。
粘土以外に、あなたの粘土への思いという
題名のレポートが課題になっているのだ。
粘土への思いなんて、
考えたこともないあたしには、
ハードルの高い課題で、困ってた。
しかも、“思い”ってなると
誰かのレポートを写すわけにもいかないし。
粘土・粘土・ねんど・・・
幼稚園の頃の、信号機みたいな色の
ころころ粘土しか、思いつかない。
うーーん、と唸っていると、
突然、名前をよばれてた。

ライラさん、ライラさん!

プリシラの冷たい高めの声だ。
はっと気づき、はい!と大きな声で
お返事した。

ライラさん、前へ。

というので前に行くと、いきなり皆に紹介された。

昨日、新しく入ったライラさんです。
わからないこともあると思うので、
皆さん教えてあげてくださいね。

とプリシラは、勝手に話してしまい、
あたしは、全く言葉を発することなく、
ただ笑顔だけ振りまいて、紹介は終わった。
前に出て、わかったけど、
ここは、ウエイトルスだけで、20人くらいいる。
ちょっとしたクラスと同じサイズだ。
いろんなことがあるんだろうな~と
ひとごとみたいに考えてた。

すると、ナンシーがつかつかと
あたしに寄ってきた。
なんか、言われる?
また、つきまとわれるのか、と
思っていると、
すっと、わたしを通りすぎる。

ナンシーは、まだ、プリシラの
話が終わっていないのに、
ものすごい勢いで歩き、
お店の窓という窓を開け始めた。

何が始まったのか、
あたしには、全く理解できず、
唖然としていると、
ほかのウエイトルスは、
また始まったか~という
うんざりした顔をしている。
いつのまにか、あたしの隣にいた
ジョニーが背を屈めて、
あたしに耳打ちした。
ナンシーは、ちょっとクレイジーなのよ
と。

えっ、と思う間もなく、
プリシラが、ナンシーに声をかける。

自分の位置にもどりなさい。ナンシー!!

ナンシーは、声を無視し、
1階の窓まで開けようと思ったのか、
階段を下りようとしたため、
何人かのウエイトルスに
腕をつかまれて、もがいていた。

ナンシーは、

酸素が足りないの。酸素が。
苦しいのよ~

と大声で叫び、手足をバタバタさせた。

すると、プリシラが、

はーい、朝礼終わり

と大声でみんなに号令をかけた。

なんと、この声にナンシーは、
何ごともなかったかのように、
配置につき、開店の準備を始めていた。

なんなのだ。これは。いったい。

ジョニーは、またあたしにウインクして
あとでね♪と言って、配置についてしまった。

あたしは、すっかり混乱し、
ナンシーを横目で何度も見てしまう。

でも、ナンシーは、平然としてるし、
なんだか、昨夜よりも、元気そう。
不思議だ。

ただ、午前中は、お客さんがいても、
ときどき、この窓明け発作みたいなのが起きて
窓をあけまくるので、困った。

サンフランシスコっていうと、
いつも暖かいイメージがあるが、
実は、フィッシャーマンスワープは、
わりと寒いのだ。
朝晩はもちろん、曇った昼間も、
フリース素材の上着や皮ジャンが必要だ。
観光客は、暖かいと思って
薄着で来る人たちが多いので、
お土産店では、店先に、
フリースの上着をこれでもか、と並べてる。
上着は、どれも、15ドルくらい。
意味のない文字が並ぶのと、大きめサイズなので
なんだか、観光客がこれを着て歩くと
ペンギンの集団みたいに見える。

そんな寒さなのに、
ましてや、海に面してるこのレストランでは、
窓を開けるなんて、ありえない。
お客さんからの苦情が、
プリシラに殺到してる。
ナンシーも、お客さんから直接苦情を
言われているのに、意に介していない様子だ。

これは、いったい、なんなのだろう。
ナンシーは、本当は、金魚なのか。
口をパクパク開けながら、
酸素がないとブツブツつぶやくナンシー。
なんだか、ちょっと、おそろしかった。

ランチで、ジョニーに聞いてみよう。
なぜ、ナンシーのブロックだけ、
ウエイトルスが、くるくる変わるのか、
よくわかった。

でも、あたしとしては、
昨日みたいに、つきまとわれるよりは、
今日の方が、ラッキーだ。
だって、窓が開いて寒いっていう
お客さんに、ちょっとしたひざ掛けを
サービスしたり、スープをサービスするたびに
チップを弾んでくれるから。
ふふふ。
このチップで、何を買おうか
考えるだけで、幸せだった。

さあ、もうすぐ、忙しいランチタイムが終わる。
そうすると、あたしのランチだ。
早速、ジョニーを探さなきゃ。

と、大好きなターキーサンドを手に
急いで、回りを見回した。

いた、ジョニーだ。
背が高いので、探しやすくって、いい。

にっこり笑いかけると、
ウインクしてくれた。
どうも、ジョニーは、ウインクがクセみたいだ。

おなかも空いたし、
ランチで、情報を沢山もらおう。

つづく・・・・