ライラ!
    ねえ、ライラ♪

バスの後ろから、声をかけられた。
だれだ。

あっリンダだった。
リンダも、今日のミーティングに
きてたんだ。
リンダは、10代トランスグループだったので、
会えていなかった。
でも、バスで会えるなんて、
ラッキー!

リンダは、あたしの客観的な目で見て、
後姿も、どこからみても、
りっぱな女性だ。
声も、女性そのものだし、
うらやましいくらい、かっこいい女性。
やっぱり、10代でトランスすると
こうも違うのか、と思うくらい
女性の骨格だ。
でも、顔は、もともときれいだったから
いまも美人なんだよね。
これは、仕方がない事実だ。

リンダは、少し疲れた表情で
弱弱しく笑った。

  少し、話したいの。
  いまから時間ある?

と聞かれて、あたしは、

  もちろん!!

と答えた。

あたしの家の近所に、リンダも
住んでいるので、同じバス停だ。
まだ、お店は、いろいろやっているけど、
リンダの様子だと、
深刻な話のようだったので、
あたしの家に行くことにした。

リンダは、あたしの家が好きだ。
カラフルでいて、落ち着けると
毎回くるたびに、驚きを隠さない。
まあ、あたしのセンスじゃないんだけど
あたしは、とても嬉しい。

あたしの家のリビングに落ち着くと
ローズヒップティーをガラスのティーポット
に淹れて、濃い目になるまで時間をおいた。
リンダの大好きなアイスクリームを
買ってあったので、
ふたりでアイスクリームをお皿に
好きなだけ盛り付けて、
ストロベリーソースやチョコレートソース、
コーンフレークや粉々にしたクッキーなどで
可愛くデコレーションを楽しんだ。

同じものでデコレートしても、
やはりセンスというか、
個性の違いがはっきりでて、
面白い。

リンダは、きれいに色分けされて、
お店にそのまま出せそうなデコレーション。
あたしは、好きなように色付けして
まるで子どもが作ったみたいにめちゃくちゃ。

お互い並べて、笑いあった。

ラブバラードを小さめにかけて、
あたしたちは、アイスクリームを食べながら
ひとしきり、学校の話をした。

そして、リンダは、今日のシェアについて
話し始める。
リンダのグループは、養子の子育てについてだったらしい。

基本的にミーティングの内容は、
その場かぎりにおいてくることになっており、
別の場所で話しては、いけないことになっている。
もちろん、だれがなにを話したか、などは、
ウワサ話としても、禁止がルールだ。

ただ、自分のシェアしたことを
もっと深めたいときなどに、
自分のことについてだけ、
別の場でシェアを続けることができる。

リンダは、自分の悩みが
ますます深まってしまったように見えた。

子育てには、危険が伴う。
独身のときよりも、
より関わる人数が増えるからだ。
しかも、教師や子どものお友だち、その親など
親密に関係を作ることも多い。
当然、そこには、さまざまな宗教や人種、
いろいろな考え方のひとが
多種雑多に混じっている。
このような中で、
トランスが、もし、ばれてしまったら、
といつも緊張しているリンダは、
いつも、張り切ったゴムのように
がんばっていた。

リンダは、泣く場もなく、
日々頑張り続けている。
夫も、一見協力的だが、
リンダの強さに甘えてしまって、
こころの痛みをシェアして
くれなくなってしまったようだった。

リンダは、静かに泣き、
淡々と語った。

ふつうの子育てだって大変なのに、
ましてや養子で、
しかも、トランスしてるその苦労は、
想像してもしきれないくらいの大きさだ。

もちろん、
子どもを持てないあたしからすれば、
どこか、うらやましいという
嫉妬心があることも事実だったけど、
それでも、リンダの苦痛を
あたしのこととして受け止めることもできた。

あたしたちは、じっとハグしあい、
静かに泣きつづけるリンダの背中を
さすり続けた。

リンダは、ようやく落ち着いたのか、
泣き止んで、すこし元気になったように見えた。

あたしは、アイスクリームを片付けて、
大好きなサントスの珈琲を淹れた。

珈琲の香りは、あたしたちを
うっとりさせて、
あたまがすっきりするのが、わかった。

珈琲を飲みながら、
あたしは、リンダに、
ナンシーの奇行について
真剣に話したのだが、
リンダは、爆笑していて、
あたしまで、なんだか、可笑しくなってしまった。

ふたりで、笑いの渦から戻ってくると、
リンダは、真顔で、言った。

  きっと、ナンシーのお陰で元気になれるよ!

そうかもしれないと、またふたりで
笑い転げた。

ナンシー、ありがとう。

リンダの笑顔が戻ったよ。

リンダのためにも、あたしのためにも、
ますます、奇行してくれ。

あたしは、帰るリンダを
道路まで送りながら、
こころのなかでつぶやいた。

つづく・・・・・