ああ、美味しい珈琲の香りがする~

目よりも、鼻が先に起きた。

タイマーで淹れられている
電動サイフォンのカタカタという
音に、ベットの上でにっこりした。

あたしは、思いっきり伸びをして、
ベットからジャンプする。
かわいい部屋靴

ピンクのふわふわファーがついた
魔法のできる少女のサンダルのイメージなんだ

をはいて、スキップした。
朝の熱いシャワーをさっと浴びて、
キッチンに行く。

今日は、目玉焼きの半熟と
ライ麦パンのカリカリトーストにバターを塗って
グレープフルーツを2個ジューサーにいれ
フレッシュジュースを作った。

サンバのリズムをかけると
からだをゆすりながら、
食事をして、出かける準備をする。

元気よく、バイト先まで歩いた。
今日も、太陽が少し隠れて曇ってるけど、
でも、キラキラした光線で
あたしは、素敵な気持ちになる。

バイト先に着くと、
ビッキーとナンシーが先に来ていた。
私と同時くらいに、クッキーも来た。
今日は、どうも混む日みたいで
あとからベニスもくるらしい。

なぜか、朝から、クッキーが
また目を赤くしている。
何が悲しいのかわからないが、
ひどく不幸そうな顔をしている。
でも、その表情に似つかない
バレーボール選手だったという
非常に健康そうな筋肉質の体をしていて、
なんだか、そのアンバランスさに
あたしは、こころ打たれた。
これが、若いってことなんだよね。
彼氏のことで悩みがあるらしく
めそめそビッキーに恋愛相談してる。
なんだか、うらやましい。
からだやこころの問題に囚われることなく
自分のままで、そのときの悩みを
悩めることの、素晴らしさ。
これは、それを失ってみないと
わからないのだけど、ね。

あたしは、お客さんが続々と入りはじめた
Aブロックの接客に奮闘した。

ときどき、ベテランのベニスが
いじわるみたいに、
急いで、とか、何してるの、とか
言ってくるけど、
そんなことが気にならないくらい
忙しい。

ナンシーも、忙しくしていて、
一生懸命やっているように見えた。

でも、気づいてみると、
ナンシーは、何もしていない。

えっ。
何も、していないのだ。

ただ、テーブルのあいだを
ぐるぐると回って、
繰り返し、歩き回っているが、
笑顔を振りまくだけで、
接客も、オーダーやサービスも
全くしていない。

歩いているだけのナンシーに、
お客は、いろいろ言っているが、
ナンシーは、係りのウエイトルスに
伝えてください、と取り付くしまもなく、
また、笑顔で、行進している。

なんてこと!?

あたしは、くるくると忙しく働きながら
ナンシーを横目で睨んでしまった。

クッキーは、途中でおなかが痛いと
しくしく接客中にしだしてしまい、
ビッキーがお客さんをとりなしている。

ナンシーは、その場にいながら、
勝手な行進を続けた。

ようやく、お客さんの波がおさまってきて、
あたしたちのランチタイムになった。

素早く、ナンシーは、休憩室に行き、
あっというまに、ランチボックスを
広げている。

あたしは、ナンシーのそばにいたくなかったので、
ランチを持っていたのだけど、
ちょっと買い物してきます、と
言い捨てて、外へ出た。

いつものスタバに行き、
頭を冷やして戻ろうと
ソイラテを買うつもりでいたが、
ものすごい混みようで、
かなり待たされそうだった。

しかたなく、瓶のペプシを買って、
バイト先の休憩室に戻った。

そこには、ビッキーとナンシーとクッキーが
並んで、なにやら話しながら
ランチを食べている。

あたしも、なかまに入れてもらい、
ランチボックスを広げた。

すると、ナンシーは、あたしの中身をみて
次々質問してくる。

それはなに?
いったい、どんなもの食べてるの?
どんな料理?
どこの国のものなの?
それ、おいしいの?

矢継ぎ早で、
あたしが答えるヒマもない。

なぜか、クッキーが、あたしの代わりに
あたしのランチボックスを覗き込んでは
答えている。

そのおかげで、あたしは、
ナンシーの質問を聞き流し、
食べることに、専念した。

ビッキーが急に聞いてくる。

  大学では、いま、どんなことを習っているの?

あたしは、粘土についてと答えると、
習ったばかりの、つまんない粘土の歴史を
思い出しながら、一生懸命披露した。
すると、ビッキーは、とても興味深そうに聞いている。
あたしは、びっくりした。

  ビッキーも、粘土に興味があるの?

すると、ビッキーは、

  新しいことを学ぶことに、とても興味がある。

とにっこりして、答えた。
いま、ビッキーも、大学の講座で
何か新しいことを学んでいるらしい。
どうも、聞いたら、経営学のようだった。
あたしには、全く興味のない世界だったけど、
授業の様子を聞いてみた。

すると、まるで粘土製作みたいなものよ。
と、粘土の製作過程をあたしに尋ね、
それをひとつひとつ、経営学にあてはめて
教えてくれた。

かなり、楽しい。

  ねっ!新しいことって、楽しいでしょ。

あたしは、本当に楽しくて、
ワクワクしたので、それを伝えると、

ビッキーは、とっても嬉しそうだった。

あたしは、元気をもらって、
午後もがんばれそうと、つぶやいた。

つづく・・・