午後も、怒涛の忙しさ。
どうして、こんなにお客さんが
押し寄せてくるんだろうって
思っちゃうくらい。

あたしは、ビッキーと会話して、
ちょっと元気になったので、
笑顔を振りまいて、
たくさんチップをもらおって
頑張ってる。

クッキーは、具合が悪くなって
ランチは食べたのに、
早退してしまった。

できるだけナンシーのほうは、
見ないようにした。
見ると、気になっちゃうし。

でも、同じAブロックだから、
どうしても視野に入っちゃうんだよね。

まだ、行進を続けるつもりかと
思ってたんだけど、
どうも行進の時間は終わったらしい。

一応、オーダーとか取ってるし、
テーブルサービスも
お皿とか並べてしてる風なのが
見えて、あたしは、なんだかほっとした。

んん??

でも、ちょっと待て。
なんだか、様子が変だ。

オーダーと全く異なる料理を
立て続けに運んでしまったらしく
すごい勢いでお客さんから
クレームをつけられてる。
ナンシーは、謝ればいいのに、
なぜかエキサイトして
同じような勢いで言い返している。

このままでは収まらないなと
あたしは思って
横目で見てると、
プリシラが出てきて
一生懸命、謝り始めた。

すると、ナンシーは、
フロアー中に響き渡るような
大声で、叫び始めた。

  ばかやろー
  とっとと消えうせろ

って・・・
オーマイガーーーット

お客さんは、ナンシーに
殴りかかりそうだったのを
プリシラが抑えている。

ナンシーは、叫ぶだけ叫ぶと
気が済んだのか、
涼しい顔して、
パウダールームに行ってしまった。

プリシラとお店のもっとエライひとたちが
総出で、お客さんに謝っていた。
なんとか、お客さんは怒りを納めて
帰っていった。

ナンシーは、どこ吹く風の顔である。
エライひとたちは、みんな
ナンシーに小さい声で
なにやら指導しているが、
ナンシーがフロアーに出ているので
あまり大きな声もだせず
渋い顔だった。

これで、ナンシーは、
ちゃんと接客しはじめるかと思った
あたしが甘かった。

ナンシーは、Aブロックの
小さなサービスコーナーに
貼り付いてしまった。

このサービスコーナーは、
AブロックとBブロックの
境目の通路の中央にある。
取り皿やナイフやフォークなどの食器類
クロスや紙ナプキンなどが
置いてあるスペースである。

そこに篭ったナンシーは、
すべてのものを数え始めた。

忙しいから、次々と
あたしたちAブロックスタッフが
取っていくにもかかわらず
ひたすら数えている。

それだけなら、いいのだが、
数が自分の思っている数字ではないらしく
何度も、あたしやビッキー、ベニスに
数を確認している。

  何枚持っていったの?
  最初は、何個あったの?

ベニスは、怒りで顔が赤くなってきた。
それでも、接客があるので、
怒りを抑えつつサービスする
その姿は、迫力がある。

ナンシーは、全くそんなことには頓着なく、
数を数えるのに必死で
思いがけない数字にパニックし
あたしたちに、声をかけ続ける。

とうとう、ベニスが、声を荒げた。
 
  ナンシー、そんな数はどうでもいいから
  接客の仕事をしなさいよ。

すると、ナンシーは。

  わたしは、接客に今日は、向いてないのよ。

だって。

あたしは、驚いた。

今日は、は、ってあなた、違うでしょ。

ぜんぜん、接客に向いてない。

あーーーイライラする~

あたしは、思わず、オトコ声で
怒鳴りそうになるのを
必死に抑えた。

いけない、いけない。
殺されてしまうんだから、
怒りをコントロールするのよ、
というママの声が
頭の中でかすかにしている。

そうそう、
怒りのコントロール

あたしは、怒りを爆発させると
どうしても、オトコ声になってしまうのだから・・・

これが、ヴォーカルセラピーの限界か。

ああ、ナンシー

あたしをオンナのままで
いさせてくれ。

つづく・・・