ローラとふたりで
お互いに買ったものを見せ合って、
自慢しあっていると、
店主らしき、さっきの大柄の男性が来た。

ダンという名前だと自己紹介してくれて、
不思議なカードを持って
占ってあげようと言ってきた。

ダンは、近くでみると、
まばゆいくらいのハンサムだった。
っていうか、オーラが、
信じられないくらい出ているんだと思う。
銀髪が輝き、近くにいるだけで、
ふっと暖かく包まれているような感覚になる。

しかも、声だ。
なんと表現したらいいのだろう。
声の振動が、ふつう以上に細やかで多く
そのぶんだけ、ただ言葉を発しているだけなのに、
まるで、パイプオルガンの和音のような
ハーモニーとなって、
こころに響くのだ。
耳から声を聞いているはずなのに、
ダイレクトにあたしの頭の中で、声が響く。
しかも、それが、とても心地よいのだ。
うっとりとしてしまう。

あたしだけでなく、
ローラもそう感じているようで、
ふたりでうっとりと
ダンを見ていた。

あたしもローラも、
占いは、大好きなので、
早速、占ってもらうことにした。

おおきなクリスタルブルーの
指輪をした指が、
丁寧に紫色のビロードのクロスを敷いた。
そのうえで、ハワイのカードだといって
マナカードというものをひろげた。
絵は、あたしからみると
まるで、ニューヨーカーの前衛アートみたいな
珍妙でカラフルな色にあふれていて、
タロットカードとは、全く異なってみえた。

ワンオラクルらしく、
1枚お引きと、まずあたしから。

男女が抱きあって、白い毛布で
ひとつになっているような絵のカードだ。

【TAPA(タパ)】
結合、パートナーシップ、境界

今のあなたは、パートナーシップがテーマ。
大事な存在だと思う人には心を開き、
こまめに連絡を取り合うと関係が発展するでしょう。

心地の良い音楽のような
ダンの声で、占いの結果を告げられると、
あたしは、ますますうっとりした。

なるほど、パートナーシップとは、
まさに、いまのあたしのテーマだ。

実は、あたしは、
オトコの時代に、
婚約までした彼女がいた。

彼女カーラとは、医学部に入学直後に
知り合い、一目で恋に落ちた。
21歳のときだ。
たいがい医学部に進学するひとたちは、
それまでの大学生活で、
必死に勉強してきており、
ガリ勉タイプが多い。
どのひともカリカリ勉強に励み、
いつもイライラ時間を気にする。

そんななかにあって、
カーラは、まさに迷い込んできた
森の妖精のような
不思議なふわふわした少女のように見えた。
その異色の存在感は、目立った。

いつも、ピンクのリボンのカチューシャをして、
真っ赤なパンプスをはいていた。
そのくせ、服装は、
ボーイッシュなボーダーのTシャツに
ジーンズが多く、
ときどきミニスカートをはいていても、
デニムのせいか、ちっとも色気を感じさせない
中性的な魅力があった。
ほとんどメイクのしないその肌は、
いつもしっとりと輝いていた。

あたしは、すぐに猛アタックをして、
授業はいつでも隣の席にすわり、
グループ実習では、同じグループになり、
いつもランチを一緒にとった。

一見明るく見えるカーラだが、
意外と人見知りをするので、
あまり会話が弾まない。
そのせいか、最初は、
たくさんのクラスメートに
囲まれていたカーラが、
あたしだけの世界になるのには、
時間がかからなかった。

あっというまに、同棲し、
あたしたちは、いつも一緒で、
ふたりの世界だけで生きていた。

カーラは、複雑な家庭に育っており、
出会ったときには、
あたしよりも若く見えたのに、
5つも年上だった。
当時、別の男性の婚約者がおり、
その婚約者の援助で進学できたようだった。

婚約者は、遠く離れたシカゴに
仕事の都合で住んでおり、
ほとんどは、メールだけで
連絡を取っていたようだ。

それなのに、あたしと同棲までしてしまい、
カーラは、悩みに悩んで、
婚約者への罪悪感に自分を責め続けるようになった。

何度か、婚約者と話し合い、
とうとう別れることになったのだが、
学費の問題があった。

あたしが出してあげられれば
良かったのだが、とても無理だった。

そのため、カーラは、
さまざまなバイトをして稼ぐようになった。
どうも中学生の頃から、家出をしてきているようで、
全く両親とは音信不通であり、
頼れるひとは、いないようだった。

それでなくても、忙しい医学部の学業に加え、
常に3つくらいのバイトを掛け持ちしていた
カーラ。
どんどん、やせ細っていき、
弱ってくるのが、わかった。

それなのに、あたしは、
自分のことで精一杯で、
いつも、カーラに甘えてばかりだった。
何も、してあげられなかった。
婚約は、あたしの両親を呼んで
婚約式をして、パーティーしたのに
カーラのために、あたしが何かを
してあげることなく、
ただただ、カーラから貰っていた。

ある日。
そう、4年目のある日。
カーラは、同棲していた部屋から
荷物をまとめて、去っていった。

あたしは、たまたま別の授業を受けており、
帰宅したら、
カーラの荷物や家具が、
全てなくなっていた。
風のウワサで、バイト先で
出会った男のところに転がり込んだことが
わかった。

あたしは、そのとき、
あたまが真っ白になって、
怒りだけが湧いてきてしまった。
カーラだけを責めることで、
あたしは、保っていようとしてしまったのだ。

そんなあたしを
クラスメートたちは、
敬遠して、嫌われたと、
あたしは、勝手に妄想に囚われて、
何度目かのアルコールに耽溺したのだった。

そのせいで、学校を卒業直前で中退し、
プリンで入院しながら
セラピーを受け、
あたしは、トランスしたのだった。

しかし、カーラのことは、
あたしの中で、罪悪感として
大きく残っており、
カーラとのような恋愛やパートナーシップを
取ることを、恐れるようになってしまった。

あたしは、ダンのパートナーシップという
言葉を聞いて、
まるでヴィデオを見るがごとく、
カーラのことを思い出してしまった。

忘れていたわけではないけれど、
あえて、思い出そうとしないように
封印していた記憶。

ダンは、続けていう。

カードは、あなたがもう、新しい大事なひとと
出会っていることを示しています。
関係を深めて、いいんですよ。

あたしは、涙が出てきた。

ありがとう。ダン。
昔の辛い記憶に向き合い、
いまのあたしと統合できる気がする。

ローラは、しっかりと
あたしの両手を握りしめて、
笑顔で、あたしに言ってくれた。

ライラ。
いまのあなたで、十分なのよ。
大好きよ。

あたしは、とっても幸せになった。

ダンは、ポケットから
不思議な形のキャンディを出して、
あたしに食べて、と渡してくれた。
それは、懐かしい味がした。

キャンディを舐めながら、
あたしが、カーラの記憶を
整理している間に、
ローラのカード占いも終わったようだった。

あたしたちふたりは、
ダンから、大事な言葉をもらって、
新しく生まれ変われた気がしていた。

ダンと、しっかりハグして、
店を出たあたしたちは、
元気よく、歩き出した。

おなかが空いたよ。
チャイナタウンで、ディナーにしよう。

つづく・・・

参考HP
「HANA ALOHA」
http://alohinani.com/