午後も、ナンシーは、相変わらず
窓開け発作がときどき起きたものの
これといった大事件もなく
あたしの拘束時間は、終わった。

ちゃっちゃと着替えて、
ダッシュで家に帰り、
学校の支度をする。
粘土の課題のレポートを
なんとか仕上げようと決めて
家を出た。

今日の夕食は、スターバックスで
買っていくことにする。
近所の本屋さんに入っている
このスタバは、いつも混んでいる。
あたしは、ライススナックと
いちごのマフィンに
シュガー抜きでローファットのラテを
オーダーし、テイクアウトした。

ほかの州から来たひとによると
スタバのラテには、
ノーシュガーが多いらしいが、
サンフランシスコは、
知る人ぞ知るおでぶちゃんの街。
ラテには、ノーシュガーと言わない限り
思いっきりの甘さで砂糖が山盛り入ってる。

ちなみに、バーガーキングでは、
サンフランシスコスペシャルという
ふつうのハンバーガーの10倍分くらいの
大きさのバーガーがあるくらいだ。

あたしは、大好きなスタバの
ラテと食べ物を手にして、
スキップするように
学校に急いだ。

着いた時間は、まだ授業が始まる
1時間半も前だったので、
スナックルームに行った。

スナックルームは、どこの大学にもあるが、
飲み物や食べ物の自動販売機や
無料のミネラルウォーターのマシンや
ちょっとしたキッチンがあり、
お湯を沸かしたり、サンドイッチを作ったり、
食べ物を温めたりすることができる。
テーブルや椅子は、
ソファと、ガーデンチェアみたいな感じに
なっていて、結構落ち着ける。
大学のボランティア募集とか
アルバイト募集、ください・あげます、
ルームシェアの募集など、
ありとあらゆる情報が
ところ狭しと貼られていて、
それを読むのも、楽しい。

入っていくと、
クラスのまとめ役になっている
リンダがいた。
あたしは、リンダとも、
家族のような温かさを初対面から
感じて、お互いだったらしく、
あっというまに、なんでも話せる
仲間のひとりになった。

リンダは、難しい顔をして、
なにやら文章を書いていた。
彼女は、あたしと同じトランス仲間でもある。
トランスしても、かっこいい女性を
目指していて、それはもう、
ほれぼれするほど、かっこいい。
普通の男性と、かなり若いころに結婚し、
すでに3人の子どもを養子にして育てている。
しかも、フルタイムで裁判所で
中国語の同時通訳をしている
キャリアウーマンだ。

きっと、仕事のレポートかもしれないと
あたしは思い、そっと、
近くの椅子に座った。

リンダの大好きなスタバのラテの
香りに気がついたのか、
ふと目をあげて、あたしを見た。
そして、にっこりした。

あたしは、笑顔に誘われて、
同じテーブルにすわり、
ラテを飲みながら、
夕食を食べつつ、
レポートを書いた。

リンダは、一心不乱に
何か書いている。

あたしも、それに影響されたのか、
ようやく、『粘土への思い』を
書き始めた。

あたしの粘土への思いは、
幼いころのカラー粘土から始まり、
かたちを変えて、
触る手にやわらかい感触を与える
粘土は、まさに遊具だと思う、
と、まとめた。
大人のための遊具としての粘土。
それは、突然、なかから
思いを形にする姿を見せてくれる。
最高の遊具のひとつだ。

書きながら、あたしは、
粘土の質感を、ありありと
感じることができた。

今夜は、この文章をもとに、
粘土での作品も作れそうだ。

リンダのお陰だ。
書きおわり、ほっと息をついて、
あたしは、顔をあげながら、
ラテを飲んだ。

すると、リンダも、ちょうど、
書き終わったみたいだ。
新しい珈琲を買うために、
自販機の前に行っていた。
ついでに、メロンパンと
スナックを買って、
戻ってきた。

にっこり、笑いながら、
あたしの隣の椅子に戻ってくるリンダ。
赤毛にグレーのストライプのパンツスーツを
ぱりっと着たリンダは、
本当に美しくて、見とれてしまった。

リンダは、

課題、書けた?

と聞いてくれたので、うん!と元気よく答えた。

新しいスタバのライススナックを
開けると、リンダは、興味津々で
それはなにと聞いてくる。

甘い飴とマーブルチョコレートのついた
ライススナックは、
思ったよりも、軽い甘さで
二人で分けて、味わった。

あっというまに、授業の時間だ。
二人で、クラスルームに、急いだ。

つづく・・・