からだがバラバラになっちゃうかと
思うくらい
踊りまくり、泣きまくり、笑いまくった。

そして、みんな抜け殻みたいに
ソファーに倒れこんだ。

あたしは、アメリカン珈琲を
熱めに入れて、
低くボサノバをかけた。

みんなは、珈琲を飲むと、
ずいぶん元気を取り戻した。

あたしたちは、そのまま
そう抜け殻のままで、
近所のちょっとリッチな
ホテルのスパへ行った。

そこには、いつもの受付の
お姉さんが、にっこり笑顔で
歓迎してくれた。

あたしたちは、更衣室で
水着に着替えると、
みんなでジャグジーにつかる。

温かいジャグジーは、
最上階のスパなので、
最高の星空が見え、
夜景もキラキラしてみえた。

あたしたちは、
語りつくしていて、
黙ったまま、
お互い小さな微笑だけで
じっとジャグジーの泡に
からだを任せた。

40分くらいつかっていると
受付のお姉さんが
シナシナと歩いてきて
エステもいまからできますよと
教えてくれた。
そのまま、あたしたちは、
ひとりづつ
エステルームに入った。

あたしの担当は、
インド系のような若いお兄さんだった。

柑橘系の香りのオイルで
全身をくまなく
マッサージされた。

それは、まさに、
このエステメニューの名前の通り
タッチヘブン(天国のようなタッチ)
だった。

マッサージのあと、
寝たままで、
サウナケースに入って
汗をびっしょりかくと、
石膏のパックを
これまた全身にしてもらう。

そのスパイシーな香りに
包まれて、
妙に心地の良い窮屈感は、
あたしを最高の眠りに誘う。

眠ったまま
あたしの石膏は、
取り除かれていた。

そして、甘い香りのパウダーで
マッサージされていた。

あたしは、
甘い香りに誘われるように
夢を見ていた。

その夢は、あたしが
チョコレートバーに
なってしまっていた。

なぜか、あたしのなかまたち
ニンゲンたちと思ってるものが
チョコレートバーになっている
という不思議な世界だった。

なにしろ、チョコレートバーなので
室温の管理に気を使うし、
動くのも、大変。

でも、自分の香りに
うっとりして、
鏡で眺めていた。

なかなかいいじゃん、
チョコレートバーのあたし。
とにっこり。

はっと気づくと、
ミントの香りのタオルが
目の上に置かれていた。

  終わりですよ

と優しい声で、お兄さんが言う。

あたしは、短い時間でも、
熟睡したせいか、
頭がすっきりして起きた。

お花とフルーツのお茶を
出されるティールームへ
行くと、みんなも、
妙にすっきりした顔で
笑顔で集まってきた。

あたしたちは、
クスクス笑いあって、
エステ後のお茶で
くつろいだ。

もう、朝だ。

だれともなく、お腹がすいたね。
と言い合って、
あたしたちは、
このちょっとリッチなホテルの
朝食を食べていくことにした。

7階でやっている
メインダイニングの朝食は、
正統派のイングリッシュブレックファーストだった。

あたしたちは、
だらしない格好ながらも、
アーティストらしく
個性的だったので
なんとか席に案内されたが、
ジーンズお断りのお店だ。

正装したウエイターに
こまごましたオーダー、
たまごの焼き方とか、
シリアルのミルクの温め加減とか、
パンの種類などを
ひとりづつ丁寧に伝えていた。

思っていた以上に
お腹がすいていたようだった。

フレッシュジュースで
小さく乾杯した。

オレンジジュースは、
最高の食前酒だ。

あたしの卵は、
プレーンオムレツにしたのだが、
卵3個分くらいの大きめで
ふわっふわ、とろっとろだった。

パンも、かたーいトースト以外に
フレンチトーストも
オーダーして、
ナターシャがはしゃぐ。

美味しすぎて、
マリアンヌは、お代わりしたり、
ジョゼフは、口いっぱいだ。

あたしも、次々と
温かいまま運ばれてくる
お料理をたいらげた。

濃い目の珈琲が
からだをしゃきっとさせる。

朝だというのに、
少しけだるく
あたしたちは、
なんともないような会話をした。

食べ終わり、
海の周りを少し
お散歩する。

最高の朝だ。

あたしたちは、
アシカの鳴き声に負けないように
海に向かって
雄たけびを上げた。

思いっきり笑い転げては、
叫ぶ。

いつもの怠惰なアシカたちが、
何事かと
少し頭を動かすたびに、
たまらなく可笑しかった。

あたしたちの朝だ。

すばらしい夜明けだった。

さあ、今日は、
事件後初のベーカリカフェだ。

みんなとハグし、
あたしは、
力強く歩き始めた。

大丈夫。

あたしは、何も怖くないし、
怖かったとしても、
もう、ひとりじゃない。

急に、夢で見た
自分のチョコレートバーを
思い出し、
こっそり笑ってしまう。

なんと、あたしのチョコレートバーは、
カラフルなレインボーだったのだ。

レインボー、ばんざい!!

ここサンフランシスコでは、
セクシャルマイノリティーを
意味するレインボーカラー。

あたしにピッタリだった。

もう、バレルかもなんて
恐れることは、ないのだ。

笑顔で、歩き出す。

つづく・・・