早めに学校に着いたので
スナックルームに行くと
なんと、クラスメートの半分くらいが
すでに来ていて、
あたしを待っていた。

みんなは、あたしのために
カードとかお菓子とか花束とかを
持ってきていて
あたしがスナックルームに
入っていくと、
次々ハグしてくれては、
ギフトを渡してくれた。

あたしは、こんな素敵なギフトを
与えてもらえるなんて
思いもよらなくて、
元気でいるのが申し訳ない気持ちになった。

みんなは、そんなあたしを
気遣ってくれて
手を握られて、温かい珈琲を
飲ませてくれる。

あたしは、誰かの手作りの
クッキーやマフィンをかじり、
その美味しさと温かさに
また涙した。

みんなは、ライラを励ますため
と言って、
おそろいのオレンジのリボンを
どこかにつけていた。

  このリボンはね、
  ライラを思っている、という
  しるしなのよ

とローラが神妙な面持ちで
重々しく伝えてくれた。

あたし用にも、大きなオレンジのリボンがあって、
それを、髪に結び付けられた。
何かのキャラクターの
お人形みたいな大きなリボンを
つけちゃって、不思議だ。

あたしは、みんなの気持ちを
肌で感じて、
からだ全体・こころ全体で
味わった。

すばらしい。

こころからの感謝を皆に伝えると、
みんなは、口々に
当たり前のことなんだからと
笑顔で返してくれた。

ありがとう。
こころから、ありがとう。

みんなに温かく包まれているうちに
授業の始まりの時間になった。

あたしたちは、みんなで
手をつないで、教室に
大移動した。

ナオミ先生は、すでに教室に来ていて
なんと、ナオミ先生までが
オレンジ色のリボンを
スーツのボタンのところに
何個もつけてくれていた。

あたしに気づくと
ナオミ先生は、さっとそばに来てくれて
大きなハグをくれた。

あたしは、また、涙が出そうになった。

ありがとうございます。

とこころから伝えた。

スナックルームにいなかった
クラスメートからも、
次々とハグや小さなギフトをもらって
あたしは、あたしではないような
雲の上のような気持ちになってしまった。

ひとしきり、みんながハグしてくれて
落ち着くと
ナオミ先生が話し始めた。

  ライラは、ひどい事件に巻き込まれました。
  みんなも、テレビなどで見たと思います。
  みんなにとっても、なじみのあるお店での
  事件ですから、動揺していると思います。
  今日は、みんなの動揺や不安のために
  クライシスセンターから、
  クライシス・インストラクターの方が
  派遣されてきました。
  その先生と一緒に授業を行います。
  みんなの気持ちを少しでも安全にしていきましょう。

あたしは、これまでも
学校などで事件があったり、
災害があると、こういった先生から
指導を受けてきたけれど、
自分がまさに巻き込まれた当事者になるのは
初めてだったので、
とてもこれは、安心するということに
いま、気づいた。

インストラクターは、三人で
簡単な自己紹介をして、
早速クライシスグループセラピーが
始まる。

アートカレッジということで
ことばではなく、
アートでのグループセラピーとなった。

大きな白い紙が、
教室の床を埋め尽くすように
床に貼り付けられる。
そして、何個かのバケツに
特殊なインクが用意された。
このインクは、からだや服についても
1時間もすると消えるという
優れものなのだ。

あたしたちは、いまの気持ちを
からだで描くことになった。

服にも、からだにも、
ついてOKなので、
みんなで、インクをかけあったり
そこここで、歓声があがるかと思うと
泣き始めたグループもある。

みんなそれぞれ、
いまの気持ちを思いっきり
白い紙に表現した。

それは、まさに
恐怖と不安の塊の
表現だった。

あたしたちは、隠すことなく
いまの気持ちを表現する。

もちろん、興味とか面白いとかの
気持ちだって、OKだ。

どんな気持ちも、OKというルールなのだ。

あたしたちは、
もうほんとに、出し尽くした
というくらい、全力で取り組んだ。

45分のこのワークは、
時間いっぱいまで
みんなで取り組んだ。

そして、アフターミーティングで
紙の上に座り、
気持ちをことばでシェアリングする。

すっかり、シェアリングが終わると
あたしたちは、
消えてしまったインクに
わかっていても、驚く。

紙も、すっかり真っ白だ。

そうなった状態で、
安全感をみんなでハグして
感じて、それを表現することになった。

真っ白の紙を取り去って、
粘土のお部屋に行く。

そこで、安全というテーマで
みんなで作品を作った。

与えられたのは、
たったの30分だったけど、
あっというまに、
みんなでひとつの作品ができた。

全く話し合ってもいないのに、
統制の取れたその作品は、
お花畑だった。

クラスメートの一人一人が
めいめい自分の安全をイメージした
お花を粘土でつくり、
みんなで作った花壇に植えた。

それは、壮観だった。

ナオミ先生も、
インクのときから一緒に参加していて
同じ学生のようになっていた。

あたしたちは、
その作品の前で
イメージワークをして、
作品を自分の目で写真に撮ったつもりになり
からだのなかの宝箱にしまった。
自分でイメージした、その宝箱の
からだの部位に触ると
いつでも、今日の作品が
ありありと思い浮かべることができ
安全感を味わえるというワークだった。

あたしは、うっとりした。

こんなにクライシスセンターの
ワークって、よかったんだ。

改めて実感した。

そして、集団の力を感じ、
そのエンパワーの力に感謝した。

すぐに派遣を頼んでくれた
学校にも、感謝した。

本当に、ありがとうございます。

わたしたちは、
頬をピンクに染めて、
安全のなかにいた。

安全に染まっていた。

すばらしい。

インストラクターとも
終了後にハグして
あたしたちは、
すっかり、自分の気持ちを
整理することができたことに
気づく。

アートってすばらしい。
こうして、こころもからだも
安全にできる道具なのだ。

とあたしは、雷に打たれたように
思った。

そんなアートと関われて
本当に嬉しい。

ありがとう。
ありがとう。

つづく・・・・・