ひとしきり
うれし泣きをしたら、
すっきりした。

バイト先からも
今週一杯お休みとの連絡がきたので、
あたしは、そのままぼーと
過ごすことにした。

ちゃっちゃっと後片付けをして
サンルームに行く。
暖かな日差しに包まれて
あたしは、ソファーで丸くなった。

そのまま、眠り込みそうなほど
気持ちの良い太陽の光だ。

あたしは、うーんと伸びをして
学校の宿題の粘土を
作ることにした。

そうそう、課題は、
『メリット・デメリット』

すぐには、思い浮かばないので
水彩画用のキャンパスに
いたずら描きをしつつ
イメージを膨らませていく。

まずは、メリット。

苺でハートを描いて
そこから愛のイメージが湧いてくる。
昨夜のイチゴのイメージが
強すぎるかも。

そのまま作業台に向かって
あたしは、黙々と粘土をこねる。
こねているうちに、
暖かさやつながりといった
イメージがフツフツと湧いてきた。

このイメージをどう形にするかが
むずかしいのだ。
あたしは、自分の手が
動くままに目をつぶって
形を作り上げていった。

目を開けて、ピンクのイメージ色を
塗ってみる。

あたしには、驚きの形だった。

小さなヒトが、ハート型に
手をつなぎ合って、
それぞれの方向に向いている。
そして、それを取り巻くように
小鳥や果物が、幾重にも
ハート型を螺旋階段状に
重ねられていた。

おもわず、見とれるくらいの
『人生のメリット』だ。

次に、デメリットをイメージする。
事件が頭から離れないのか、
パンとか、フランス人形とか
ケンカするひとたちが
水彩画で浮かんできてしまう。

デメリット・・・
危険や渇きなどが
イメージされてきた。

しかし、危険や渇きって
粘土で形作るの、むずかしすぎ。

あたしは、太陽の光のなかで
作業台の上の粘土を
無心にこね回していた。

デメリットの形。

お祈りのように
目を半目状態にして
頭を柔軟にしてみる。

なかなか形にならない。

目をつぶって
形を生み出そうとしている。

まあるく、円形が出てきた。
それは、池のようなイメージ。

そのうえで、ちいさなヒトや
ちいさな動物がひっくり返っている。
木は逆さに生え、
果物がヘンな風に垂れ下がっていた。

池は、干からびている。

まさに、乾いて、戦う、イメージだ。

あたしは、形ができあがると
土色に、色を塗った。

メリット・デメリットを
並べておいてみる。

二つをどうつなげるか、
それが問題だ。

あたしのなかで、
からくりのような
丸い地球儀がイメージされた。

それは、半分づつに
部屋がわかれ、
見る側によって、
どちらも見れるように
クルクル回る装置だった。

その半分づつの部屋に
メリット・デメリットを乗せる。
いま、メリットが見えているのに、
くるっとまわすと
デメリットが見えるという仕組み。

まさに、人生そのものだ。

あたしは、粘土をこね回し
その土台をつくり、
仕組みを工夫すべく、
プラスチックで作ってみた。

作品が乗って、
しかも回っても、
びくともしないように
作りたい。

かなり大きめになるので、
プラスチックに、木片も
補強でつけてみた。
重みが、どの程度耐えられるのか
わからない。

とりあえず、色を乾かせ中の
粘土を秤で計ってみた。

その重さと同じものを
キッチンで探してきて
とりあえず、それをくっつけて
まわしては、補強した。

ようやく、重みに耐えられる
装置になったころ、
お腹が空いてきた。

作業をいったん中断し、
キッチンで
焼きリンゴをレンジで作り、
冷凍のパイ生地の上に
のせて、オーブンで焼く。
ついでに、蜂蜜漬けのレモンも
入れて、シナモンを振った。

15分くらいで、オーブンから
良い匂いがしてくる。

大好きなアップルパイだ。

三人分くらいあるが、
あたしは、気にせず
焼き上がりを大皿に盛って
アイスクリームを盛大に
デコレートした。

ダージリン紅茶をポットに入れて
サンルームに運び
太陽の光のなかで
美味しくいただく。

匂いと味で、
あたしは、自分を天才じゃないか、
と思いながら、
にっこりしつつ、食べた。
最高のランチだ。

しっかりお腹いっぱいになると、
作業を続けた。

丁寧に色が乾いて
いい感じに色付いた粘土を
ひとつづつ、
装置にくくりつける。
粘土自体にも、
補強できるように
粘土やプラスチックを
重ねてみた。

試行錯誤をしながら
完成に近づく。

さあ、
これでどうだろう。

題して、

【くるっくるっと回る、
 人生のメリットデメリット】

でーきた!!

すばらしい。

あたしは、珈琲を淹れて
すすりながら
完成品を眺めた。

あたしってば、
最高じゃん。

気づくと、夕方だった。

さあ、学校へ行こう。
クラスメートと会って、
授業を受けよう。

行ってきます!

できたてホヤホヤの作品に挨拶して
元気に出かけた。

つづく・・・・