ナンシーちゃん。
  わかるかな~
  そうそう、Aボタンを押して
  そうそう、次は、Fよ。
  よくできました。
  で、次は、Lを押してね。

イライラした様子のリズが、
電話口で、猫なで声を
出している。

しかも、フロアーを
せかせか歩きまわりながらだ。

あたしは、そんな様子が、
リズらしくないような
そんな気がした。

フロアーは、満席なのに
全く見えないように
リズは、電話の声を上げる。

   だから、最初は、Aボタンよ。
   じゃね。

いきなり電話を切って、
せかせかと歩き回る。

なのに、すぐに、また電話が鳴る。

   はーい。リズよ。
   ナンシー。
   ううん。違うわ。
   最初は、A、Aボタン。

   そうそう、そして、F。
   Fが、どこかわからない?
   キーボードの、どこか?
   ええっ。
   下から2行目でしょ。
   じゃね~。

がしゃっと切る、リズ。

ナンシーなのか。
相手は、ナンシーなのか。

また、すぐ鳴る電話。

   はーい。リズよ。
   まあ、ナンシー。
   どうしたの。
   最初のボタン、
   あら、Aでしょ。
  
   うん・・・・・・
   ・・・・・・うん。
   保護されてる生活も大変なのね。
   うん。うん。

   そう・・・・
   そうなんだ。
   それで、キーボードが・・・
   うん。
   そう、最初は、Aよ。
   じゃね。

電話を切って、大きなため息のリズ。
また、すぐ電話。

なんだ。なんだ。
あたしたちは、リズと電話が
気になって仕方がない。

すぐに、また電話がなる。

その繰り返しで、
なんと、もう、3時間だって
リズがつぶやく。
もう、毎日よ。
うんざり。

ええええーーーーーーーー

さん・じ・かん・だーーーー

あれって
ナンシー。
なぜ、ナンシーなのだ。

リズは、せかせかと
歩き回り、
フィリップが
フロアーにやってきた。

まだ、電話が切っては、
鳴っている。
ナンシーからだけみたい。

フィリップが
リズをひっぱるように
フロアーから出ていった。

あら。
あらららら。

あたしたち、フロアー係りは、
一斉に、ため息をついた。

なんだっていうのだ。
ナンシーって。

はっと、あわただしく
サービスしているうちに
あたしのランチの時間になった。

ロッカールームに行くと
べティーも
ランチの時間らしく
ふーとため息をついていた。

べティーは、あたしを見ると
にっこり笑って、

  一緒にランチに行かない?

と誘ってくれた。
あたしは、そのにっこりに
すごく嬉しくって、
一緒に行くことにした。

どんなレストランに
行くのだろう。

わくわくする。

ついでに、リズとナンシーのことを
聞いてみよう。

つづく・・・