【キラキラしたい☆】57
ラン医師のオープンミーティングが
終わって、みんなで
ぞろぞろと部屋を出た。
あたしは、ぼーっとしていた。
すると、後ろから
あたしの名前を呼ぶひとがいる。
ライラ。ライラ。
あたしだってば・・・
だれだ。あたしって。
あたしは、廊下の
少しスペースになっている
ところで立ち止まって、
後ろを見た。
だれだかわからず、
きょろきょろしてしまう。
あ・た・し・だってば。
と大きな声。
声の方を見ると、
そこには、
15年ぶりくらいに会う
あのころのなかまがいた。
当時は、スカラという名前で
レズビアンだといいながら
異性への
セックスワーカーをしていた。
いつも底抜けに明るいかと思うと
急に連絡がとれなくなるという
竜巻みたいなおねえさんだった。
あたしは、なんて
名前を呼んだらいいのか、
わからないので、
笑顔で手を振った。
だいたいミーティングで会っていた
なかまたちは、
自分の好きなニックネームを
使っているので、
そのニックネームが変わったりするし、
ほとんど本名は知らない。
よく考えれば、不思議な関係なんだけど
でも、自分で自分に名前をつけるっていうのも
すごくエンパワーされて
ステキなことだと思う。
ちなみに、あたしの名前ライラも
自分でつけた名前なのだ。
あたし、スカラよ。
ああ、まだスカラを使ってるんだ、
って、ちょっと嬉しかった。
スカラは、あのころと変わらず
ものすごい痩せ方をして
エネルギッシュだった。
スカラは、出会ったときから
摂食障害だったけど、
楽しそうに拒食してて、
見てて清々しい感じさえした。
いまも、ガリガリだけど
楽しそうに人生を語る、
その性格は変わっていないようだった。
せきこむように、
会えなかった
15年間を語るスカラは
幸せそうだった。
これから催眠のワーク会場に
向かうというので、
あたしもついていくことにした。
催眠といっても、
退行催眠といって、
過去にさかのぼるワークだ。
ワークルームに着くと
飛び入りでもOKとのことで
あたしも参加することにした。
あたしのワーク担当は、
可愛らしい少女のような
催眠セラピストだった。
小さな小部屋で
対面して座ると
簡単に挨拶だけして
あたしは、目を閉じた。
催眠セラピストが
数を数えると
5、くらいで、
からだがリラックスするのがわかる。
エレベーターに乗っているかのように
催眠セラピストの誘導によって
あたしは、人生を
逆行していた。
なんだか、
海のなかにいるような
そんな感じになっていて
上手く話せない。
催眠セラピストの
抑えた声が
いま、何歳ですか、
どこにいますか、
と言っているのを
遠くに聞こえている。
あたしは、しばらく
何が起こっていて
いま何歳なのか
全くわからなかった。
ぶくぶくぶくぶく・・・
向こうの方で
女性のか弱い不安そうな声?
気持ちが伝わってくる。
ぶくぶくぶくぶく・・・
声を出そうにも、
出せない。
なんだか、よくわからない。
ようやく声を出して
催眠セラピストに伝える。
水の中みたいなんです。
上手く話せません。
どこなのか、何歳なのか、わからないのです。
と小さな声を絞り出した。
ぼんやりと光が差し込むのが見えた。
ぶくぶくぶくぶく・・・
やわらかく温かい水のなかだ。
あたしは、その感触を十分
味わいながら、
だれのなのかわからない
緊張した不安の気持ちを
受け取っていた。
遠くの方で、催眠セラピストが
そろそろ戻ってきてください。
と言っている。
あたしは、また
エレベーターみたいなものに乗って
現在まで戻ってきた。
目を開けて
ほうーーっとため息をついた。
いったい、あれは、どこだったの。
だれだったのだろうか。
グループになって、
いまの退行催眠のシェアリングをする。
20人くらいのグループだ。
いま起きた催眠の出来事を語る。
あたしは、自分に起きたことを
どう話していいのか、
全く見当もつかなかった。
それでも、シェアで
覚えていることを話すと、
スタッフが
はっとしたように
教えてくれた。
あなた、胎児になったのね。
ママの胎内にいたのね。
初めてて、胎内まで退行したなんて・・・
と言葉を失っていた。
あたしは、その言葉で
パズルピースが
ぴったりはまったような
そんな気がした。
そうだったんだ。
胎児だから、水の中で
上手く話せなかったんだ。
ママは、あたしを妊娠中、
初めてだから、
緊張したり、不安だったり、
してたのね。
それをあたし、
自分の気持ちだと思って、
いままで受け止めてしまってたんだ。
このママの気持ちを
あたしから
手放そう。
そう、決めた。
緊張や不安は、
あたしのものじゃなかった。
ママのものは、ママへ。
あたしの感情を見つけよう。
オンナでいること。
そして、胎児のあたしの気持ち。
大事なことは、
自分の気持ちを
しっかり見つけることだ。
すごく不思議な気がした。
久しぶりにスカラと会って
10代半ばの辛いときを
懐かしく思い出した。
そのあとで、
胎児のあたしと
出会った。
あたしは、たくさんのあたしから
できている。
それをひとつのまとまりにして
いまのあたしがあることに、
なんだか、感謝する気持ちが
湧いてきた。
どれも、無駄はなかったし、
一筋の光を見つけて
その光のほうへ
生きてきたことに
気づく。
今日は、来てよかった。
プリンは、いつも、
新しく古い記憶の発見で
満ちている。
唐突に、プリンを食べようって
思った。
参考HP
【日本催眠心理研究所】
http://www.shinri.com/index.html
つづく・・・