【キラキラしたい☆】22
ローラは、あたしの視線なんて
どこ吹く風で、
自分の恋愛について語り始めてる。
目下のローラの恋愛は、
同じ学校の先生への片思いだ。
その教師がいかに素晴らしい
才能の持ち主かを
熱い口調で語った。
なんでも数学の先生らしい。
数学の才能っていうのも、
珍しいわ。
それをリンダも、
わくわくした顔で
聞き入っている。
あたしは、あさっての耳で
ナンシーについて
考えていた。
ナンシーは、なぜ、
あんなに奇行が多いのだろう。
そして、なぜ、
クビにならないのだろうか。
どうも、プリシラが
からんでいるらしいと
ジョニーに聞いたけど、
どうなんだろう・・・
あたしは、すっかり笑顔のリンダと
悩ましいローラが
恋愛シェアに満足して立ち上がるのを
待った。
すっかり意気消沈したまま
あたしは、家に帰った。
月明かりの中を
あたしは、とびきりの贅沢として
ブルガリアンローズのバスバブルを
たっぷりのお湯で泡立てた。
神秘的な三連のアジア象の
燭台に、同じローズの香りの
蝋燭を灯す。
贅沢なローズの泡で
すっかり気分もよくなり
あたしは、とっておきの
レースのネグリジェで
ベットにもぐりこんだ。
気づくと、いつものメリーさんの羊が
けたたましく鳴っていた。
あたしは、けだるくあくびをして、
キッチンに行き、
グレープフルーツ2個で
フレッシュジュースを作り飲みながら、
ハムとチーズで簡単なサンドイッチを作った。
セーフAブランドのマスタードバターのスプレーを
サンドイッチ用の薄くスライスした
パンに吹き付ける楽しさったらない。
思わず、ハミングしてしまう。
ダンサブルなアメリカンポップスを
かけて、リズムにのりながら、
食べつつ、出かける準備をした。
今日は、週1回の
バイト先の
ウエイトルス朝礼の日。
あたしは、片付けもそこそこに
バイト先に急いだ。
途中、ジョニーと会ったので
一緒にお店に入る。
着いたと同時に
朝礼だった。
プリシラが前に出て、
この1週間のトラブルや問題点について
話し始めている。
あたしは、まわってきた
やわらかキャラメルクッキーを
ミルクティーで楽しみながら、
話を聞き流していた。
それにしても、
トラブルや問題点て
ナンシーが源のことが多いのに、
何故か、全くナンシーのことは
トピックにも内容にもなく、
別のウエイトルスの名前ばかりが
上げられている。
あたしは、ぼんやりしながらも
その不公平な内容に、
なにやら不穏な空気を感じた。
すると、Bブロックのチーフである
べティーが立ち上がった。
どうしてナンシーのトラブルについて
何もないのですか?
プリシラは、ぞっとするような
冷たい笑みを浮かべて
何もないからです。
と言い捨てる。
そんなことはないことを
十分わかっているウエイトルスたちは、
席でザワザワし始めた。
ナンシーは、大声で泣き始め、
プリシラがそそくさと
朝礼を終えようとしていた。
ジョニーが大きめの声で
お客様からの苦情のメモは、
ナンシーについてばかりなんですけど。
と笑いながら発表した。
ビッキーもクリスも
激しい勢いでうなづくと
大きな声で、
そうだそうだ、と言い始める。
そこへ、ベニスが急に立ち上がった。
わたし、プリシラのダーリンの
浮気相手を知ってるわ。
だいたい、元夫の最初の彼女はわたしだし。
プリシラは、ダーリンの浮気相手の問題で
ナンシーをかばってるんじゃないの。
なんて、爆弾発言!!
でも、わけがわからないのは、
ダーリンの浮気相手とナンシーが
どうつながるのか、だわ。
それに、ベニスって
ふつーのおばちゃんぽいのに
すごいことを発言するわね。
驚きだ。
プリシラは、真っ青な顔で
走り去っていった。
なぜか、ナンシーが続いた。
気がつくと、あたしの隣に
べティーがいた。
小声で、ランチを誘われた。
あたしは、わけがわからないまま
はい、ご一緒にお願いします、と
答えていた。
そのあとのバイト時間は、
とても大変だった。
ナンシーは、戻ってきたのだが、
泣き腫らした目で
まったくやる気がない。
そして、プリシラが、張り付いた笑顔で
お店のフロアー中を行進している。
ナンシーは、お店の窓際で
携帯電話を取り出して、
電話をし始めた。
しかも、大声で。
あのー、あの件は、どうなりました?
すっかり、わたし、わからなくなってしまって
教えてほしいんです。
こういった受け答えで、
十数件の電話をかけ続ける。
当然、お客様から苦情が出て
困ってしまって、
プリシラに伝える。
プリシラは、びっくりするような笑顔で
なにやら、ナンシーの尻拭いを
し続けていた。
あたしは、イライラがピークに
なりそうだった。
呪文のように、
あたしは、オンナ、
あたしは、なにも悪くない、
あたしは、大丈夫、
と頭の中で唱える。
そして、このあいだ学習した
安全な怒りの表現を
やってみることにした。
それは、わざと、お皿を落とし、
泣きながらパウダールームに逃げ込むという
高度なワザだ。
さあっ
とお客様が
少なくなったフロアーで
あたしは、深呼吸した。
お客様のいないスペースで
お皿を落とすのは、
至難の業だ。
あたしは、深呼吸したら
少し落ち着いたので、
お皿ではなく、
ナイフやフォークを落とすことにした。
しかも、安全に
サービスコーナーで
ひっくり返すことにした。
ミーティングで学んだように
あたしが自分でオンナと同定するために
すぐさま、泣き出して
パウダールームに行くことだけは
必須だ。
さあっ
もう一度、深呼吸して
サービスコーナーに
しゃなりしゃなりと向かう。
途中、お客様に呼び止められたが
あたしは、やんわり別の
ウエイトルスを呼んでしまった。
ようやく、サービスコーナーにつき、
スペースに入る。
よしっ
と自分に掛け声を頭のなかで
かけるのだが、
どうしても、手が動かない。
さあっ
と、もう何度目かの深呼吸に
掛け声をかけるが
からだが硬直してきた。
ああ、急に尿意まで
催してくる。
どうしよう・・・
と思ったと同時に
がっしゃーーーん
というすごい音がした。
あたしは、われに返って
音の先を見た。
なんと、ナンシーが
自分のお盆に載せていた
ステーキのお皿を
両手6皿分、
頭からかぶっていた。
きゃあーーー
とすごい悲鳴だ。
熱いのだ。
プリシラが飛んできた。
あたしは、すっかり怒りを忘れ、
思わず、笑顔になってしまった。
べティーやジョニーから
失笑が聞こえてくる。
ビッキーとクリスは、
さっとパウダールームに
急ぐのが見えた。
あたしは、脱力して
パウダールームに
ダッシュした。
つづく・・・・・