さあさあ、ひさびさの
ハンバーガー♪
と鼻歌をのんきに歌いながら、
髪をドライヤーで乾かしていると
携帯が鳴った。

ローラだ。

 おはよう。今日はね、ランチバイキングが
 シェラトンホテルであるんだって。
 一緒に行かない?

もちろん、OKの返事をして
今日着ていく服を選んだ。

ふだんは、そんなに着ていくものに
拘らないのだけど、
今日は、ラブリーな服を着たくなった。

あたしは、トランスしてから
オンナノコっぽい服ばかりに
セレクトすることはなくなった。
どちらかというと、トランスする前で
自分の性が揺れているときの方が
オンナらしいとかオトコらしいとか
極端な服を着ていたような気がする。
どう見られるか、が
最重要問題だったからだ。

でも、いまは、違う。
もう、オンナだし、
過剰な服での演出をする必要が
なくなったのだと思う。

それでも、幼いころには、
憧れたまま着られなかった
レースやフリルの服は、
持っている。

あたしは、クローゼットに行き、
可愛らしい服、というコンセプトで
コーディネートしてみた。

大胆なフリルが前についた
オーガンジーのブラウススーツにした。
やわらかいピンクオレンジの光沢のある
スーツスタイルだ。
透けるので、下には、ゴールドの
ホットパンツとキャミソールを着た。
すごく可愛い。

ヘアースタイルも、アップにして
同じ色のリボンをターバンみたいに
頭に巻いた。
鏡を見て、ちょっとやりすぎと思うくらいで
自分で爆笑してしまう。

ターバンを解いて、
小さく何本も編みこみにした髪に
これまた小さいリボンを
差し込んでみた。
これまた、可愛くできた。

すっかり満足して、
ピンクとオレンジでメイクを
簡単にして、
オレンジ色のローヒールを履いた。

さあ、ローラとランチに行こう。

スキップしながら
シェラトンホテルに行く。
老舗のこのホテルは、
重厚な作りで、現在は、
半分リニューアル中。
目下は、工事の音と
足場などで建物が覆われているため、
客足が遠のいている。
そのため、地元向けにさまざまな
サービスキャンペーンをしてくれる。

ここのところは、
バイキングスタイルのキャンペーンが多い。

今日のランチもそうだろう。

玄関からロビーに入ると
落ちついたブラウン地にシックな薔薇柄の
絨毯が迎えてくれる。
ソファーは、どれも大きく
真ん中の大きな暖炉を囲むように置かれている。
絨毯と似ている薔薇柄でふかふかだ。

あたしは、ベルサイユ風と
勝手に呼んでいる
豪奢なゴールドメッキの縁取りがされた
一人用のソファーにすべりこんだ。

すぐ後ろのそこだけ小さく
切り取られたような
スペースを抜けるとカフェレストランになっている。

ローラは、どんな服装で
くるのだろうと
楽しく待っていた。

すると、向こうから
子どもたちを連れたローラが
歩いてきた。
随分前からここにいたみたいだ。
今日は、近所の大きな事件ということで、
学校がクライシスセンターの
配慮でお休みになったらしい。

あたしは、久しぶりにローラの
子どもたちにも会うので、
にっこりして、挨拶に駆け寄った。

もう、お腹がすいた。

と子どもたちが口々に訴えるのを
ローラがなだめていたようだ。
あたしは、遅くなってしまったことを
謝ると、すぐにレストランに入った。

席に誘導されると
子どもたちは、すぐさま
バイキングを取りに
小走りで行ってしまった。

あたしたちは、
ふたりでにっこり笑いあった。
ローラは、今日も、
不思議な色のオリエンタルな衣装だった。

あたしをじっくりみたローラは、
とってもチャーミングよと
笑顔で言ってくれて、
あたしも、すごく嬉しかった。

子どもたちと入れ替わりに
あたしたちも、食べ物を取りに行く。

そこは、本物のアメリカンフード、
といったお皿が並んでいた。

ハンバーガーが、チーズ・ダブル・オニオンなど
6種類くらい、焼きたてが、次々並ぶ。

ポテトフライ・ステーキ・鳥の唐揚・
卵料理にソーセージの数々・・・

もちろんデザートも
ゼリーにプリン、ケーキにアイスクリームと
ものすごい種類だ。

全部で40種類くらいが
小さなお皿で盛られていて、
新しい熱々が次々運ばれている。

あたしたちは、たくさんのお客さんの
なかで泳ぐようにして
自分の好きなものをお皿に取り分けた。

あたしは、チーズバーガーに
アボガドバーガー。
ポテトフライに
野菜のディップが副えられたチップス2種。
それに、大きめグラスに
ダイエットコークを注ぐ。

まさに、ジャンクフード万歳って感じ。

みんなのお皿に
これでもかと盛られている。

あたしたちは、ローラの食前のお祈りが
済むのを待ち焦がれて、
早速食べ始めた。

みんなは、それぞれ自分の選んだ
バーガーにかぶりつく。

  おいしい~!!

ジューシーで、たまらない美味しさ。
ナイフとフォークなんて
使えない。
手づかみで、ソースを口から指から
たらしながら、
自然な笑顔になってしまう。

子どもたちから
アニメやTVドラマの話題が出て
あたしたちは、ソープドラマや
有名人のゴシップで
大笑いしながら、食べた。

最後のデザートで
小さなケーキをつめこんだ
アイスクリームを作って
食べる頃には、
ゲップがでちゃうほどだった。

食事が終わると
子どもたちは、
お友だちと遊ぶ約束があるといって
帰ってしまい、
あたしとローラは、散歩することにした。

海沿いの観光客ロードを
歩いていく。

風は、冷たいものの
太陽の光が暖かく
食後の散歩には、ぴったりだった。

20分も歩くと
大きな水族館に着く。
巨大な水族館で、
何頭ものイルカが競演するショーは
全米でも有名だ。
週末には、観光客が集まってくる。
今日は、週末の土曜日だったせいか、
かなりの盛況ぶりだった。

あたしとローラは、
ぶらぶら歩いて、
見るともなくその観光客の列を
眺めていると、
手を振っているひとがいる。

あたしも、ローラも
観光客なんて知り合いが
いるはずもないので
無視していたのだけど、

  ライラ~!!

という大声で、無視できなくなってしまった。

駆け寄ってきたひとは、
バイト先のビッキーだった。

なんでここにいるのか、不思議だったけど、
あたしは、ローラを紹介して、
ひとりでどうしてこんなところにいるのか
尋ねた。

すると、ビッキーは、

  フィアンセがここにいるの

と恥ずかしそうに言う。

  フィアンセ!?

とあたしたちは、大声を上げてしまった。

  ここに、って水族館?
  水族館のひとなの?

と目を丸くしてあたしは訊く。

  そうなの。
  彼は、ドルフィントレーナーなのよ。

と誇らしそうに言うビッキーの頬は
ピンク色になっていた。

ぜひ、彼がトレーニングしたドルフィンを
観てほしいと頼んでくるので、
あたしたちは、水族館のショーを
観ることにした。

というより、あたしは、
ビッキーのフィアンセの方が興味があった。
だって、気になるじゃない。

大勢のお客さんにまみれて
あたしたちは、
ショーの会場に急いだ。

つづく・・・