あたしは、ライラ。
サンフランシスコの観光地
フィッシャーマンスワープに住んでいる。
ここで生まれ育ち、いまもずっとここにいる。

フィッシャーマンスワープは、
よく知られていると思うけど、
アシカと蟹とクラムチャウダーの町だ。
わざわざアシカの大群を見に、
全米からアメリカ人がやってくるし、
海外からもやってくるらしい。
アシカは、観光用のはしけの上で
ただ寝そべって、とんでもない声をあげ
なんの芸もしないというのに、
飽きもせず人々が集まるのは、謎だ。
あたしには、ふきっさらしの海沿いで
アシカを見るなんて芸当は、できない。
でも、そのあとの美味しい蟹と
クラムチャウダーに誘われちゃうかもね。

あたしは、もうすぐ30歳。
でも、まだ、アートのカレッジに通いながら
バイト生活でがんばってる。
いつか、造形のアーティストになるつもりなんだ。
学費を稼ぐために、いろんなバイトを
やっているんだけど、ついこの間から
このあたりでは、大きくて有名なベーカリーカフェに
勤め始めた。

このベーカリーカフェは、
一階はカフェで、二階はレストランになっていて
あたしも、よくデートなんかで
利用してて、大好きなお店だ。
パンは、オーダーすれば、
どんな形も作ってくれるのが、売りで
ショーウインドーには、
大きな蛇とか、亀とか、サンタクロースが
飾ってある。
もちろん、クラムチャウダーも
めちゃくちゃ美味しい。

こんなお店で働けるなんて、
ラッキー♪ととびあがって喜んだ。

そんなバイトの初日。
あたしは、レストランに配属され
ウエイトルス・マネージャーの
プリシラから、簡単な訓練を受けていた。

プリシラは、40歳半ばの
シングルマザー。
細身で、いかにもやり手って感じ。
微笑みは冷たく、とげとげしい指導だ。
でも、マネージャーと仕事するわけではないから
とあたしは、一生懸命だ。

一通り訓練が終わり、フロアーへ。
フロアーは、広いので、ABCの3つのブロックに
分かれている。
あたしは、Aブロックになった。
このAブロックのチーフが、ナンシー。
見た目は、お人形みたいで
クリクリの可愛い金髪に、お目目。
三十台だと思うのに、結構、いけてるじゃんって
初対面で思ったのが、間違えだった。

ナンシーは、ことあるごとに、
あたしにつきまとった。

「ねえ、どうすればいい?」
「どっちがいいと思う?」
「きゃー、わかんなーい」

これは、ナンシーの言葉だよ。
初めて働くあたしに、言う言葉じゃないよね。

ナンシー、どうかしてるよ。

あたしは、あんまりのナンシーに
ちょっとキレ気味だった。
接客だから、あくまで笑顔なんだけど、
ナンシーのつきまといが、苦しい。
観光客が相手だから、チップを弾んでくれるのに、
ナンシーがいると、全部もらえないし。。。

初日は、くたくたで、終わった。
帰宅してから、親友のローラに
電話して、聞いてもらう約束をした。
明日、朝食に、とっておきのパンケーキを
食べさせてくれるアイホップに
行くことにして、少し持ち直す。

宿題の粘土をぐりぐりしながら、
今後のバイト生活をやっていけるか
ぐるぐる考えた。
はっと気づくと、粘土が、ナンシーに!?

きゃーああ・・・・

今日は、もう寝よう。

明日、ローラに相談してから、だ。

つづく・・・・