ロシア民謡風のうたを
ハミングしながら
ロシアレストランのバラライカに着いた。
お店は、いつも広いせいか、
閑散としている。

あたしたちは、
陽気なウエイターに挨拶すると
いつもの窓際の席に落ち着き
ボルシチランチをオーダーした。
もちろん、ふたりでシェアする
ロシア風ロールキャベツも
忘れずにオーダー。

熱々の真っ赤な蕪のスープに
真っ白なクリームがほんのしずく
真ん中に描かれている
ボルシチは、すっぱい感じでありながら
こくがあり、とても濃厚である。
キャベツや人参の味までが、
真っ赤に染まって、ボルシチになっている。
いつきても、素晴らしい美味しさだ。

あたしたちが、一生懸命
熱いスープをふうふう食べていると
ニコニコしながら
ジョゼフがやってきて、
当然のように、あたしたちの席に座った。
彼は、いつものように、
ビーフストロガノフランチだ。

あたしたちのピロシキが
手の平くらい大きいのに
ひとり2個づつ、運ばれてくる。

これも、ものすごく熱々。
揚げてある皮がパリッとして
歯ごたえがあるのに、中は、
とろっとろだ。
ひとつは、ほんのりカレー風味があり、
もうひとつは、シチューのような感じだ。
ほっぺたが落ちそう。

すぐに特製のハンドメイド黒パンもきて
ボルシチをすくっては、食べる。
この黒パンも、炭酸が入っているかのような
すっぱーい味なのだが、
バターをつけて、ボルシチをのせると
ものすごく後を引く味なのだ。

三人でシェアすることにして
大きめのロールキャベツを
三等分する。
真っ白なソースがかかって
スパイシーな味わいだ。

これまた真っ赤なイチゴジャムの小瓶が
置かれて、紅茶がやってきた。
もちろん、大きめのクッキーのような
しっとりしたロシアケーキも
ついてくる。

ジョゼフのビーフストロガノフも
ビーフがほどよく煮込まれていて
とても美味しそうだった。

三人で、熱々の美味しいものを
思う存分食べて
とても楽しく時間を過ごす。

ジョゼフが、言う。

  結婚て、いいよ。
  最愛のひとがいつもそばにいるって
  幸せだよ。

あたしも結婚したいけど、
ハードルが高すぎるので、
曖昧な笑いをしていると
ジョゼフが驚いたように話続けた。

  そうか。
  ライラは、結婚しない性質なんだ。
  そういう性格のひとっているよね。

と一人で納得している。
ナターシャがあわてふためいて、

  性格って何よ。
  ライラに、なんて失礼なこと言うの。

と怒り始めた。
それでも、ジョゼフは、何で怒られているのか
わからないのか、

  いいんだよ。
  俺たちは、結婚する性質なのさ。

とにっこりした。
あたしも、思わず、にっこりして
このふたりの口げんかのノロケに
当てられていた。

楽しいランチの時間が終わると
ジョゼフはそのまま仕事に戻っていった。
あたしも、ナターシャに
ありがとうと心からお礼を言って、
家に帰ることにした。
ナターシャは、温かいハグをして
送り出してくれた。

ぶらぶらと歩き、
バスで帰ろうとバス停で待っていると、
仲良く手をつないだ
サンデイとグレイのカップルが
歩いてきた。

サンデイは、驚いたように
どうしてここにいるの?
と聞いてきたが、
あたしは、グレイの顔のアザが
とても気になってしまった。

とりあえず、近所のドーナツショップに
入り、話をすることにした。
この間のアフリカンダンスの後に
一体何かあったのか、も知りたかった。

しかし、まずは、今朝の
ナンシーと男たちの事件について
私が生々しく話した。

サンデイは、とても驚いて
これからお店がどうなるのだろうと
ため息をついていた。

グレイは、顔をさすりながら、
プリシラの恋人との、
この間のトラブルを話してくれた。

それは、ただグレイは挨拶に行った
つもりだったのに、
いつもベーカリショップで
サンデイにプリシラが苛められていると
恋人が怒った声で言ってきたので
そうではなく、
いまのベーカリショップの様子について
サンデイから聞いていたことを
説明しようとしたら、
逆切れされてしまったので、
思わず殴ってしまい、
殴り合いになってしまったとのことだった。

しかも、グレイは、
こころに問題をもった
少年少女たちの施設で働いていて、
思わず、ナンシーの娘と付き合っているのか、
と口走ってしまったらしい。

そのせいで、後から追いかけられて
そのことを話すなと
ボコボコにされたとのことだった。

グレイは、ボクがボコボコにされた
ということは、やはり
ナンシーの娘は、かなり若いのではないか
と心配していた。
今日は、サンデイとふたりで
児童センターにそのことについて
相談しに行くところだという。

あたしは、自分が痛いめにあっても、
ナンシーの娘のために、
行動するグレイを
こころから尊敬した。

あたしは、何もできないけれど、
ナンシーと夫も、
なぜか、今朝から
トラブルに巻き込まれているのだから
せめて娘だけでも、
幸せになってほしいと
こころから思った。

サンデイとグレイに、
グッドラックと伝えて、
あたしは、家に帰るのではなく、
ベーカリーショップに
戻ることにした。

つづく・・・・