ピイーーーーー

大勢の観光客に混じって
押し合い圧し合いしながら
ようやく前の方の席にすべりこむと
始まりの合図のような
高い音の笛が鳴った。

ファンファーレが鳴り響き
大きなプールの中に
イルカが悠然と泳ぎ
登場してくる。

ローラは、興奮して、
大声でなにやら叫んでいる。

あたしは、その大きさに
驚いていた。

見たことも無い大きさの
まん丸なプール。
プールを取り巻くように
半円形に客席がある。
客席には、ほぼ満席状態。
プールサイドには、
大勢のスタッフがおり、
プールの上にも
ガラス張りの高い天井から
小さな舞台が数個下がっていた。
どのスタッフも
小さなマイクをつけ、
えさなどを持って、
走り回っていた。

すると、ひとりの男性スタッフが
自己紹介とイルカの紹介を始めた。

隣でビッキーが

  彼よ!彼、
  かっこいいでしょ。
  フィアンセなの。

と目がハートになって
ピンクになってしまっている。

あたしは、ビッキーの彼を
じっくり見た。
でも、遠すぎて、よくわからない。
声は、よく通る
耳に心地よい響きだ。
背が高く、すらっとして見えた。

ビッキーは、興奮してきて、
彼の担当のイルカを指さし、
がんばれと声援を送っている。

ローラは、座ったまま
踊り出して、
これまた興奮状態だった。

あたしも、観ている間に
興奮してきた。

十数頭のイルカが、
音楽にのって
揃ってただ泳いでいるだけでも
感動だ。

それなのに、
テンポにのって
左右に分かれたり、
小さなグループで
踊っているような泳ぎをする。

圧巻なのは、ジャンプ。
全く失敗せずに
どのイルカも、
見事なジャンプを見せる。

水しぶきをキレイにあげて
すべてのイルカが
高い位置の円の中を
通るラストは、
涙が出るほど、感激した。

あたしたちは、
それぞれ興奮を胸に
スタンディングオベーションを
した。

大人も子どもも、
同じように興奮し
感激しているのが
わかった。

なんと、アンコールにこたえて
すべてのイルカで
またジャンプしてくれた。

すばらしい。

いったい、イルカって
どれくらい賢いんだろう。
そして、どんなに
運動神経が良いのだろう。
と、ひたすら感激する。

また、言葉が通じないのに
こんなに素晴らしく
トレーニングするトレーナーにも
感銘を受けた。

なるほど、ビッキーが
新しい勉強を始めることが
趣味なわけだ。

こんなに凄い才能を持った
フィアンセがいるからこそ、
素敵な刺激を受けるのだろう。

拍手しすぎて、
座席を離れるころには、
あたしたちは、
少し脱力状態だった。

ビッキーに誘われて、
水族館を出て、
近くのアイスクリームショップに
入った。

あたしたちは、
アイスクリームパフェを
オーダーし、
美味しい珈琲をいただく。

言葉を出せないほど
感動の中にいた。

ローラが、厳粛な顔で
ありがとうとお礼を言った。
あたしも、ビッキーにこころから感謝した。

ビッキーは、ひどく嬉しそうなのに、
照れちゃって
真っ赤な顔になっちゃった。

そして、彼から教えてもらったという
イルカの生態や
訓練の仕方などについて
簡単に教えてもらった。
ローラは、とても興味深そうに
目を輝かせて聞いている。

あたしたちは、
美味しいアイスクリームを
食べながら、イルカの
深遠な魅力を思って
にっこりした。

すっかり、
バイト先のことなんて
忘れてしまいそうだった。

なのに、ビッキーったら
バイト先の話を始めた。

明日、全員が集まって
ミーティングを
行うそうだ。
これからのこと、
人員配置のことなどについて
さまざま話があるらしい。

警察からも、
少しではあるが、
経過について説明があるそうだ。

あたしは、
ちょっと辛い気持ちになったけど
バイトは続けたいし、
なんとか、持ち直そうと
思って、笑顔を浮かべてみた。

ビッキーとは、
アイスクリームを食べ終わると
お店の前で別れた。

ローラは、少し
落ち込み気味のあたしに
気づいたのか、
腕をとって腰に回し
まるで恋人同士のように
あたしと密着した。

あたしは、すっかり
有頂天になってしまう。

それだけで、癒されるのに、
ローラが、歌を歌ってくれた。

あたしたちは、
スキップでダンスをした。

幸せだった。

つづく・・・・