あたしたちは、スキップしながら、
それぞれ家路についた。
あたしも、みんなも、ご機嫌だった。

あたしは、スキップのまま
お家に着いた。

勝手なステップを踏み、
手を打ち鳴らしながら、
バスルームに行く。

今日の気分は、
パッションフルーツ。
パッションフルーツの香りの入浴剤で
バスタブにお湯をため、
あたしは、幸せに、深呼吸した。

作品ができあがって、
みんなでそれをシェアしあうって
なんて、幸せなんだろう。

医学部にいたときには、
こんな日がくるなんて、
思ってもみなかった。

もともと、専門職に就いたほうが、
わたしのようなセクシャルマイノリティーで
メンタルに問題のある人生が
より生き易くなるのではないかと
考え抜いたなかの選択だったのだ。

ところが、思っていた以上に、
医学部は、閉鎖的で、
しかも、とんでもないくらいの
勉強量のため、いつも時間に追われて
眠る時間の確保すら、できなかった。

あたしは、一生懸命勉強して、
なんとか、がんばろうっと思ってた。
でも、孤独だった。

医学部って、あんなにグループ活動とか
チームでの意見のシェアとか
うたっているくせに、
その実体は、孤独との戦いだった。

いつも、ひとりの勉強ですら
おいつかないくらいの量でアップアップなのに、
グループやチームだと、
みんなに追いつかなければと
ますます量が多くなる。

とにかく競争なので、
だれも助けては、くれない。
ひとを助ける余裕が、
ほとんどないのだ。
それどころか、自分すら助けられず、
あたしのようにドロップアウトするひとが多い。

普通の会話もなく、
ひたすら競争で、専門用語だけの
生活は、あたしを疲弊させるだけだった。

アルコールの問題を抱えるひとが
多いのも、うなずける。
あたしみたいに、過去に問題があれば、
なおさらだ。

あたしは、早々に見切りをつけて
本当に良かったと思う。

深く息を吸い、
現在に感謝した。

あたしは、パッションフルーツになって、
ベッドでも踊りながら眠った。

朝になると、
足がアザだらけだった。
あちこち、眠りながら踊って、
ぶつけてしまったみたい。

あーあ、とため息つきつつ、
元気良く、キッチンに行く。

すっかりおなかが空いていたので、
大好きなターキーサンドイッチを作り、
珈琲を淹れた。

そのまま、ステップを踏みつつ、
豪華なサンドイッチをほおばって、
今日のスケジュールを確認した。

今日も、まずは、バイトだ。

ナンシーやプリシラのこと、
そして、バイトの人間関係が
なんだか、違う世界のことのように感じる。

あたしは、やっぱり、
アートに生きる人間なんだなと
こころから思った。

バイトに行くと、
とっても疲れるから、
今日は、別のひとになったつもりで
劇をやってみようと思った。

まさに、ロールプレイのつもりで
現実をやってみる、
このアイデアに、あたしは、
とってもステキな気持ちになった。

さて、あたしは、
どんな役になろうかしら。

お茶目な少女なんて、どうだろう。
バイト先には、いないタイプだし、
あたしの精神年齢もそれくらいだろうし、
ぴったりだ。

お茶目、お茶目、と
ぶつぶつ言いながら、
バイトに急ぐ。

かわいい声で、挨拶して、
お茶目にウインクしてみよう。
思いっきり、転んだり、
声を出したり、してみよう。

髪を結んだ、かわいいリボンを見て、
あたしは、にっこりした。

  おはようございまーーす!

元気よく、フロアーで、みんなに挨拶する。

そして、ウインクしようと思ったのに、
なんだか、みんなからの挨拶に元気がない。
というか、トラブルの最中のようだ。

あらら。
ロールプレイでは、まさにいまが正念場。
お茶目に乗り切らなくっては、と
あたしは、こころに誓った。

つづく・・・