とうとうあたしは、
あたまのなかが、
100%オトコになったまま
バイトを終えた。

接客中、オトコ声にならないように
気をつけなくちゃと思うが
すでに頭はオトコになっており、
声を出さないで、
笑顔とジェスチャーで乗り切った。
ある意味、英語のわからないアメリカ人の
フリをすれば良いので良かったが、
スパニッシュと間違えられて
スペイン語で話しかけられるのには
参った。

だって、うっかり英語で

 スペイン語わかりません

て答えてしまいそうなんだもん。

あーーーー
どうしよう。
このままでは、オンナに戻れないよ~

今日は、これから学校だったけど、
このまま行ったら
オトコになってしまいそうで
その恐怖からどうにかなりそうだった。

あたしは、とりあえず近くでやってる
AAミーティングに行くことにした。
AAミーティングは、どこかでいつでも
やってるので、こういうときには
逃げ場になってくれて嬉しい。

あたしは、高校生のときに
ラン医師からの“強制”で
AA思春期グループにつながってから
そのまま、ずっと、
ときどきスリップしてお休みしちゃうけど
成長に合ったグループに
参加している。

AAミーティングは、アメリカでは
ありふれた自助グループなんだ。
アルコールアディクションの問題を持った
本人や家族、パートナーや
子どものためなどの
グループだ。

そこには、専門家は参加しない。
たいがいは、もともとは当事者だったが
現在はクリーンで回復している先行く仲間が
運営してくれていることが多い。

当然、同じようなアルコールの問題を
抱えていたクリーンな仲間の姿を
見るだけでも、エンパワーされるし、
まだ回復途上の仲間たちと
シェアすると、こころが温まる。
孤独ではなくなるからだ。

アディクションの問題は、
アルコールや薬物が問題なのではなく、
孤独の問題だと
ラン医師は、言う。
そう誰かとつながることで
回復していく問題なのだ。

あたしは、とにかく仲間に会いたくて
最も近くのAA会場に行った。
そこは、教会の一部屋だった。
あたしは、信仰心など
これっぽっちもないけど、
教会の雰囲気が好きだったから、
丁度良いと思った。

青年期グループが始まっていた。
あたしは、途中だったけど、
ミーティングの輪に入れてもらう。
なにしろ、スリップしそうなのだ。

スリップとは、せっかくアルコールを
止めている途中で、また飲んでしまうという
状態を言う。

ああ、あたしは、オトコになると
アルコール欲求が高まってしまうのだ。
もう、酔っ払って、何もかも
どうにでもなれという
投げやりな気持ちになってしまう。

途中からだというのに、
あたしにも、シェアする時間が
与えられた。
それだけで、泣きそうになるほど
嬉しかった。

あたしは、涙を流しながら
シェアを始めた。
ついつい、オトコ声になってしまうが
ここでは、大丈夫だ。
あたしのことをヘンに思わず
同じアルコールの問題を持った仲間という
温かい目で見てくれて、
受け入れてくれる。

怒りのコントロールができない
と何度もつぶやいて、シェアを終わった。
隣の男性が力強いハグをくれた。
あたしは、ハグで、こんどは
嬉しくて泣いてしまった。

その間に始まった別のひとの
シェアで、あたしは、学んだ。

怒りのコントロールを
やはりテーマに語られた
そのシェアリングは、
とても示唆に富んでいて
しかも、あたしには、
まるで神様からのギフトのように
聴こえた。

そう、このままのあたしを受け入れる。
怒りをそのまま受け入れる。
そして、どう安全に怒りを表現するかの
選択肢をたくさん持っておくこと。

いまのあたしに必要なことばを
こうして、シェアリングで
得られる幸せは、
アルコールの問題を持ってよかったと
こころから感謝する瞬間だ。
仲間とつながっている幸せほど
心地の良い時間はない。

   安全に
   選択肢 
   
大事なことばをこころに注ぎ
あたしは、またオンナに戻った。

ついでに、怒りのスイッチもわかった。
オトコになってしまうスイッチを
いかに自覚するかで、怒りのコントロールの
しやすさが違う。
スイッチ、スイッチとつぶやいた。

あたしは、それでも、スリップせず
こうしてミーティングに
飛び込んできたことを
皆に褒められて、皆からハグをもらう。

ありがとう。

あたしが皆に言うことばなのに、

  来てくれてありがとう

と何度もいわれて、
あたしは、こころの底から
温められて、嬉しかった。

あたしのソウルフルな家族は、
ここにある、と実感する。

ほんの2時間にも満たない時間で
あたしは充足し、
学校に行く元気ができた。

神様、ありがとう。
あたしは、たくさんの問題を持っているけど
幸せです。
問題があるからこそ、
出会えた仲間がいてくれるから
本当に幸せです。

せっかくの教会なので
ついでに神様にも、感謝を捧げた。

さあ、粘土の時間だ。
いそがなくっちゃ。

あたしは、教会のパウダールームで
女性の仲間にヘアメイクを
しっかり直してもらって、

 とってもキレイよ!

という言葉に、にっこりして、
学校に出かけた。

みんな、ありがとう。

つづく・・・

参考HP
「AA JAPAN」
http://www.cam.hi-ho.ne.jp/aa-jso/