SSTの話題は、
週末のパーティーとかBBQでの
振る舞いかたのようだった。

そうそう、よく誘われるんだよね。
ご近所とか、習い事とか、
学校とか、職場とか、
どの週末も、そのお誘いで
スケジュールが埋まるくらい
どこかでいつも開催されている。

たいがいがペア参加だから、
セクマイの場合には、
もうその前提条件自体に
ひっかかってしまう。

だからといって、
行けないと怖気づいて
不参加が続くと
人間関係がギクシャクして
ますますむずかしくなってしまうのだ。

あたしが来たときまで
話していたひとが
このあいだの出来事を
だーっと話している。

それを周りのスタッフのおばちゃんが
うんうん、と
ほんとに普通に聞いている。

で突然エイミーが問題を拾って
提示してきた。

  いまの最も困難だったこと、
  もう一度、ヴィデオを再生するみたいに
  再現してみて

彼女は、詳細に語りはじめた。
それは、BBQでのオンナ同士の
ウワサ話の場面だった。

最初から、男性が肉を焼くところに集まっていて
彼女は、女性が集まる野菜のところにいたようだ。

その野菜のコーナーには、
数人の女性がいて、
ひっきりなしにウワサ話をしていた。
しかも、それは、
目の前の肉を焼いている男性の話だったり、
すぐ近所の夫婦の話だったり、
かなり親密な付き合いのあるひとたちの
ウワサだった。

みんなは、楽しそうに
あることないことウワサにしては、
きゃーっと歓声を上げて
楽しんでいた。

彼女は、どうしても、楽しめなかった。
その場にいるのが、いたたまれない感じがして
笑顔が作れなくなった。
ひたすら、無言で、うつむいて、
野菜をひっくり返していたという。

ところが、後日、その女性たちから
次々連絡がきて、
付き合いが悪いとか、
真面目すぎて怖いとか、
いろいろ言われてしまった。
と泣いていた。

このままだと、
いつか、自分が元オトコって
ばれるんじゃないか。
それを、ウワサで
街中に流されるのではないか、
と思うと、不安と恐怖で
夜も眠れなくなってしまったという。

しかも、また、
2週間後に同じメンバーでの
パーティーに誘われているという。
行きたくないけど、
行かないともうそのひとたちの集まりからも
どこからも誘われず、
友人ができなくなるのではないかと
不安がっていた。

似ている。
あたしのバイト先で
あたしが味わってる感じと、
そっくりだ。
ただ、この彼女は、
怒りやオトコになってしまうという恐怖が
ないみたいだけど。
そこは、すごいと思う。

そんなこと考えてたら、
すぐにロールプレイになっていた。

おばちゃんたちが
BBQにいるつもりになって、
即興でウワサ話を始める。
彼女の役をエイミーがやってみせていた。

それを見終わって、どう感じたかを
あたしたちが話す。
もちろん、彼女もだ。

そして、どう振舞いたいかを
彼女自ら提案する。

それをまずエイミーが即興で
ロールプレイし、
あとから、彼女が模倣して
練習する。

その後、参加者のおばちゃんたちが
自分だったら、どうするか、を
ロールプレイでやってみせて、
彼女が選択肢として
持っておきたいものを
模倣して練習した。

それは、圧巻だった。
何より、スタッフのおばちゃんたちの
ロールプレイは、
演技とは思えないほど
イキイキしてて、
エイミーの指導も自然で
あっというまに、あたしたちまで
巻き込み、流れを変えていくのだ。

すごい。

彼女がみるまに、
自分の姿を客観的に見れて、
なりたい自分になれて、
しかも、選択肢を増やしてる。

あたしは、これがSST?と
目から鱗だった。

これまでのSSTって
教科書があって、
その通りに練習するって感じで、
挨拶とか、話し方とかも
決まった形を訓練するから、
欲しいものが得られなかったのだ。

しかし、これは、
いま、まさに起こっているなかで
欲しいスキルが自分でも気づき、提示され
しかも練習して自分のものにできる。

あたしは、エイミーの
素晴らしい力に圧倒されていた。

お茶を飲みながら、
エイミーの解説がある。

トランスすると、
まあ、トランスする前から、
ひとからどう見られているか、を
たえず気にして生活している。
そして、自分がいかに
周りに合わせていられるかで
コミュニケーションをしようと
思ってしまうのだ。
しかし、日常のコミュニケーションは、
もっと自由だ。
自分が聞きたいものを聞き、
話したいことを話し、
そして、自由に空想できる。
ひとは、そんなにそばにいるひとの
振る舞いをチェックしてジャッジしない。
ジャッジしているのは、
自分なのだ。

というエイミーの話は、
すごい説得力だった。

あたしは、なぜ、エイミーが
こんなにトランスしたひとのことが
わかるのだろうと
感動してた。

でも、エイミーから、
 
 わたしも、スタッフも、
 昔は苦しんだのよ。

というひとことで、あたしは、
たまげた。

まさに、ぶったまげたって感じ。

とても、そうは見えない。
ふつうのおばちゃんだし、
ふつうの会話だった。
只者ではないのは、
ロールプレイでわかったけど、
プロだからだと思っていた。

やっぱり、ママの言うとおりだった。
何事も、経験だ。

そして、エイミーの言うとおり、
自分の中のジャッジだった。

自分の中のジャッジを
いかに幅を広げたり、
少なくしていくか、で
十分対応できるんだとわかった。

そして、あたしのことを
あたし以上にジャッジしているひとは
いないってことがわかって、
少しほっとした。

あたしたちトランス組は、
どうしたって、自分の中の
ジャッジのルールが狭くて厳しいのだ。
なぜかは、よくわかる。
それで、生き抜いてきたのだから。

でも、もう、手放せるものは、
手放そう。
とあたしは、思った。

ちょうど、授業の時間だ。
あたしは、また来ますと
元気に挨拶して、
学校に急いだ。

つづく・・・